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夜の影

第17章 Daylight

【翔side】

時計を見ると、そろそろ支度をした方が良い時間だった。

俺は手に持っていたクイックルなんとかを階段下の収納に片付けて、腰で結んだエプロンの紐を外す。

母の形見になってしまったエプロンは、どれもこれも花柄で、似合わないことこの上ない。

弟妹が見たら、何て言うかな、とふと思った。



サトシが見たら何て言うかな。



きっと顔をクシャクシャにして笑うか、全然動じないで自分も同じものを着けるか。



頭の中で想像しながら自室への階段を上って、取り敢えずシャツに着替えた。



ハタと気づく。



平服で来るように、と言われていたけど、一応はオープン記念のイベントなんだから、ネクタイをした方が良いのだろうか。



夏日になるって、天気予報では言ってた。

ジャケットを着るのはやめた方が良いだろうか。

それとも、ポケットにチーフぐらい、入れておいた方が良いのか。



こういう、大 人 の 常 識 とか、マ ナ ー 、建前みたいなものを俺は何も知らない。

両親が生きているうちにもっと教わっておけば良かった、と思う。



ネットで調べようかとも思ったけど、そういう考え自体が自分で考える力を奪うような気がして、結局やめる。

ネクタイを選ぼうとして手が止まったまま、まずは自分で考えてからだろ、って己に言い聞かせた。



多分、今日はサトシに会える。

久しぶり過ぎて、緊張してるんだ。

馬鹿みたいに早く起きてしまって、何かしていないと落ち着かないから、朝からずっと家中の窓を開けて掃除をしてた。







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