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夜の影

第17章 Daylight

【智side】

それは不思議な店だった。

一応、新規オープンってことにはなってるんだけど、花輪とかそういうお祝いめいたものは何もない。

喪中だから、ってことらしい。

一見何の店か分からない外観は、窓がいくつもあるものの、観葉植物などで中の様子はハッキリわからないようになっている。

美容室のようにも見えたし、花屋のようにも見えたし。

カフェのようにも見えないことはない。

レトロなチョコレート色のドアにはベルがついていて、人が出入りする度に、優しくのんきな音を響かせてた。



店の名前は「Daylight」。



中に入ると、フロアの中央には大きなピアノがあって、自動演奏が控えめに流れてる。

昔、学校の合唱コンクールで歌ったことがある曲で、懐かしい。

静かすぎず、真面目過ぎず、穏やかな旋律で。

散々練習させられた歌詞を思い出した。



『人はただ 風の中を 迷いながら歩き続ける』



遠い日の、歌。



俺の背中に隠れたカズをかばいながら店内を見渡してみると、壁際にそってコの字を描くように、個室?が設置されている。

隣り合ったスペースとの仕切りはあるけど、壁ではなくて。

家具屋の展示スペースを小さくしたような感じ。

それぞれにソファがあったり、カウチがあったり、デスクがあるところもあった。


「智君と和也君はここやな」


店に来てた弁護士のジョウシマさんが案内してくれたスペースには、出入りするところに「1」と書かれた木製のプレートがかかっていた。

テレビとゲームのハード機が何台か設置されてて、ラグの上に沢山のクッションが置いてある。

隅に置かれたベンジャミンの大きな鉢の下に、床に固定するタイプのハンモックがあった。


「今日は一日、好きに遊んでええんよ」


ジョウシマさんが、俺の背中に隠れたカズに向かって笑いかけた。







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