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夜の影

第17章 Daylight

【翔side・マツオカの挨拶】


「本日は急な呼び出しにも関わらず集まっていただいたことに感謝いたします。

長い挨拶は苦手ですので、この店が出来た経緯を簡単にお伝えしたいと思います。


先だって彼岸へ渡った社長は、亡くなる少し前、アキラ達のことを大変気にかけていました。

それぞれに事情を抱え、他に道もなくこの仕事に付いた若い連中が、ようやく暁を迎えた時に。

もう一度自分の人生を生き直すことが、果たして出来るのか、と。


暁、というのは夜明けのことです。


夜の闇にあって更に暗い影の中にいるような仕事を続ける間、夜明けは必ず来る、ということを忘れないように。

そう言う意味で暁と名付けたと聞いています。


しかし背負った物から解放され、
やっと何もかもがZEROになり、朝日を浴びた時に、
そこからまた人生をやり直すのは容易なことではないだろう、と。


表には出しませんでしたが、年季の明けたアキラを送り出す度に、社長はいつも心配しておられました。


背負っているものが大きくても、
それに潰されないように、と暁と名付けたものの。

背負ってきたものこそが、
生きる理由となっていたのならば。

それが無くなった時に、
もう生きる理由がないと感じるかもしれない。


それで、夜明けを待つ者だけでなく、
夜明けに立ち竦む者たちにも、
一歩踏み出す勇気を持つまでの間、
折り合いをつける場所が必要だろう、と。

そう仰って。

この店が計画されました。

社長は、店を見ることは叶いませんでしたが…。


それぞれに抱える事情には踏み込まない、
というルールは、
皆さんは既に十分におわかりでしょう。


交流を持つ場ではありませんが、
この店があることで、
アキラと名乗っているのは自分だけではない、
と、知ることが出来れば、
少しはこの苦界を生きる慰めになるのではないか。

そう考えております。


会員制のレンタルスペースという体裁ではありますが、
ここは皆さまの為に作られた場所です。

いつでも好きな時に、食事したり、
昼寝したりして、
自由に使って欲しいと願っています。

取り敢えず本日は、
受付で渡されたカードに書かれた番号の場所で、
時間を気にせず寛いでいってください。

退出の際の声がけは必要ありません。

以上です。」








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