テキストサイズ

夜の影

第22章 【過去編】Beginning

【智side】

平日のコンビニは朝の出勤する人達と、その後は昼飯を買いに来るお客さんさえやり過ごしてしまえば、そんなには忙しくない。
もう1年以上働いてるし、ルーチンでやることが決まってるから、慣れたものだった。

「大野くん、時間だよ~上がって~」

「あ、大丈夫でーす。遅番さん来るまで居まーす」

バックヤードからジュース類の補充をしながら店長に答えていると、ペットボトルの向こう、店側でドアを開けていたお客さんと目が合った。

たまにあるけど、こういうのって何かバツが悪いと言うか、じろじろ見たらいけないような気がしてしまう。

かと言ってバッチリ目が合ってるのに知らんふりも感じが悪い。
オイラはとりあえずペコッと会釈する。

普通はこれで終わりだ。
お客さんにとってはコンビニの店員なんて、ただのモブなんだから。
でもこの時は違った。

地元では見かけない制服を着た小柄な男の子は、オイラのことを不自然なくらいにジーッと見ていた。
色素の薄い茶色い目と色白の肌、顎の黒子が印象的だった。

「…………」

「…………」

お互いにしばし無言のまま見つめ合って。

「そうだ、大野くーん、カラアゲ持って帰って~。
お礼だから晩御飯に食べてね~」

人が好い店長の呼びかける声で、オイラは背後を振り返る。

「はーい」

返事をしてそのまま客から離れた。

「どう? おウチの方は落ち着いた?」

「あ、はい。昨日納骨しました」

「そうか、無事にお骨も収めたんだね。
良かったね、って言うのはおかしいけど、一安心だな」

「そっすね。
いろいろ有り難うございました。
奥さんにもいつもオカズとか、感謝してます」

「いやいや、ウチのは世話焼きが好きでやってるんだから気にしなくていいよ。
断り難くて困ることもあるだろうけど、かえって悪いなぁ」

かーちゃんに大人の挨拶ってのを一通り教わって来たけど、こういう時は何て返事をしたらいいのかわからなくて困る。

曖昧に笑ってたら、遅番さんが出勤してきた。

これ幸いと会話を切り上げ、店長オゴリのカラアゲを有り難く貰って外に出ると、そこにさっきの学生さんが待っていた。

オイラはこの日、生まれて初めて、自分の異母弟に会った。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ