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夜の影

第25章 Child missing

【智side】

その日もオイラの記憶の中ではいつもと同じだった筈だ。
後に刑事さんと、かーちゃんからも何度も訊かれたよ。
何かおかしなことは無かったか、って。

見たことがない人は来なかったか。
ケン君に普段と違う様子はなかったか。

何しろ子供だったし、その当時だって思い当たらなかったのに、今じゃあ尚更難しい。

オイラのかーちゃんが先に迎えに来て、何回もバイバイを言った。
ケン君は普通に笑ってた。
知らない人も来なかった。

それ以外に言えることも無かったんだ。

夜ごはん中に警察から電話が架かって来て、かーちゃんが見たことないような厳しい顔で「アンタ何か知らないの?」ってオイラを問い詰めて。

怖くなって泣きながら、わかんない、って言うのが精一杯だった。

それからパトカーに乗って、町の中を流しながらケン君を探すのに協力した。

生まれて初めて乗ったパトカーが珍しくて、ちょっと面白かったけど、あの時点ではそんなに深刻な感じでもなかったんだよ。

パトカーに同乗してたお巡りさんとの会話から、前の日にケン君がお兄ちゃんとケンカしていた話が出て、人さらいの可能性もあるけど家出かもしれない、って言ってたのが聞こえたからね。

オイラもかーちゃんとケンカして3千円で家出させられそうになったことがあるし、じゃぁ、きっとケン君も家出だな、って。

むしろ真剣な顔をしてるかーちゃんの方が怖かった程でさ。

結局、もう暗くなってて子供が出歩く時間じゃなかったし、ケン君を見つけることは出来ずに帰宅することになって。オイラにとってはそこまでの話だったんだ。

何でかって言うと、かーちゃんから公園に行くことを禁止されたから。

「智が公園まで来るなら、かーちゃんはもう仕事を辞める」つってさ。

働きに出ることをあんなに喜んでたのに、自分のせいで仕事を辞めるなんてダメだと思って、オイラは公園に行くことを止めた。

その頃には学校生活にも慣れて別の友達も居たし、ケン君とは学校も違ったから、徐々に忘れてしまったんだと思う。


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