夜の影
第26章 in the park
【智side】
何かを堪えているような顔で、それでも微笑むような優しい顔つきでサカモトさんが続ける。
「貧乏で学校のジャージばかり着せていたから、友達が出来ても遊びに行くと親御さんが嫌がったりすることもあったらしくてね。
……だから、君と友達になれたのはとても嬉しかったみたいだよ。よく君のことを話してた。サトシ君、って名前は何度も聞いたのに、ピンと来なくてごめんな」
そうだったのか。
ケン君はいつも明るくて、言葉もハキハキしてる子だったし、そんな辛い想いをしていたなんて全然気づかなかった。
ダメだ、涙が出そうだ。
泣いたらいけない。
そんな資格ないんだから。
「大野君、何か少しでも思い出せることはあるか」
ヒガシヤマさんが言う。
「いつもと違うことはなかった。
なら、いつもはどんな風だった?
事件が起きた時は夏休みの前だったな。
夏の公園で思い出せることはあるか?」
真摯な口調だった。
「夏の公園……。
あの、全然大したことじゃないけど」
「構わない」
「やぶ蚊が凄くて。黒いヤツです。
半ズボンの足をよく刺されて。虫除けスプレーを借りに行ってたこととか。
水飲み場で噴水みたいにして遊んで、そこら中に水溜まりを作ったり。
……すみせん、こんなことぐらいしか」
話しながら情けなくなってきて、どうしても声が小さくなる。いたたまれなくて下を向いた。
「虫除け……それは誰に借りた?」
「隣の教会の人です。
いつもトイレを借りに行ってて、そこに居たお兄さんが時々おやつをくれたりして。
それで、麦茶を出してもらった時に借りた。
それからは、いつでも使っていいよって」
俯いたままモニョモニョと言ったら、二人が押し黙った気配がする。
「お兄さん、ってことは若い男だな?
名前を憶えているか」
「名前……」
あの人は何て呼ばれていたのだったか。
親しくなってからは名前で呼んでいたような気はする。
記憶を辿ってみるけど、形にならない。
いつもどんな話をしていたんだっけ……。
何かを堪えているような顔で、それでも微笑むような優しい顔つきでサカモトさんが続ける。
「貧乏で学校のジャージばかり着せていたから、友達が出来ても遊びに行くと親御さんが嫌がったりすることもあったらしくてね。
……だから、君と友達になれたのはとても嬉しかったみたいだよ。よく君のことを話してた。サトシ君、って名前は何度も聞いたのに、ピンと来なくてごめんな」
そうだったのか。
ケン君はいつも明るくて、言葉もハキハキしてる子だったし、そんな辛い想いをしていたなんて全然気づかなかった。
ダメだ、涙が出そうだ。
泣いたらいけない。
そんな資格ないんだから。
「大野君、何か少しでも思い出せることはあるか」
ヒガシヤマさんが言う。
「いつもと違うことはなかった。
なら、いつもはどんな風だった?
事件が起きた時は夏休みの前だったな。
夏の公園で思い出せることはあるか?」
真摯な口調だった。
「夏の公園……。
あの、全然大したことじゃないけど」
「構わない」
「やぶ蚊が凄くて。黒いヤツです。
半ズボンの足をよく刺されて。虫除けスプレーを借りに行ってたこととか。
水飲み場で噴水みたいにして遊んで、そこら中に水溜まりを作ったり。
……すみせん、こんなことぐらいしか」
話しながら情けなくなってきて、どうしても声が小さくなる。いたたまれなくて下を向いた。
「虫除け……それは誰に借りた?」
「隣の教会の人です。
いつもトイレを借りに行ってて、そこに居たお兄さんが時々おやつをくれたりして。
それで、麦茶を出してもらった時に借りた。
それからは、いつでも使っていいよって」
俯いたままモニョモニョと言ったら、二人が押し黙った気配がする。
「お兄さん、ってことは若い男だな?
名前を憶えているか」
「名前……」
あの人は何て呼ばれていたのだったか。
親しくなってからは名前で呼んでいたような気はする。
記憶を辿ってみるけど、形にならない。
いつもどんな話をしていたんだっけ……。