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夜の影

第27章 眠らないカラダ

【和也side】

「解ればいい。
カズ、お前にはいずれ任せたいことがある。
お前にしか出来ないことだ。
俺は暫く忙しい。当分の間ここには来るな」

「はい……」

邪魔をするな、って意味だなと淋しく思う。けど、これ以上面倒を掛けて嫌われたくない。

「大野さん」

「…………」

上着を引き寄せながら、行こう、と呼びかけるつもりで名前を呼んだ。でも大野さんはこっちを見ない。
気のせいか丸い頬が膨らんでる?

「大野さん、ノリユキ兄さんは仕事だから、もう帰ろう」

「…………」

「大野さん?」

強く言っても全然反応してくれない。

え? どうしたの?

戸惑っていたらノリユキ兄さんの声がした。

「言いたいことがあるなら言えばいい」

僕に言ったんじゃない。

大野さんが無表情にノリユキ兄さんを見る。睨んでるようにも見えて、ここに至ってやっと僕は気がついた。

怒ってるんだ。
この人、怒ると黙る人なんだ。

「……あんた達はいつもこうやって、自分達の都合だけで話を進めんのかよ」

ボソボソ言う口調からは、怒りの感情は感じられないくらいなのに。僕にはわかる。大野さんは明らかに腹を立てていた。

「大野さん……」

宥めようとした僕を見向きもしない。
引くつもりはないらしく言葉を続けた。

「あれはケン君?」

ノリユキ兄さんは黙って大野さんを見ている。

「ケン君だったのか、って訊いてるんだけど」

「……だとしたら何だ?」

「助けなきゃ駄目だろ、アレは。
見てしまったんだから、俺は知らなかったことには出来ないよ。ケン君、あんなこと、子供の時からされてたなら……俺とかーちゃんにも責任がある」

「…………」

「それともアレは別人で、見せたかったのはもう一人の方?あの男がハヤシさん?
ケン君の居場所を知ってるのか。
だったら……そっか、欲しいのはオトリなんだ……
そういうことか……」

呟くように言うと、大野さんは目を閉じて深く息を吸い。
ゆっくり吐き出してから、真っ直ぐノリユキ兄さんを見た。

視線を受け止めた兄さんがフッと口角を上げる。

「お前は頭がいいな」

この二人、似てる。

なのに。
僕ときたら、出来ることは二人の顔色を盗み見るぐらいで。惨めじゃないか。

酷い。

酷いよ。

「俺、やるよ」

大野さんが静かに言った。


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