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夜の影

第30章 movin' on

【智side】

ハッ!! と目を開けた瞬間から既に物凄い動悸がしている。
バクバクと有り得ない速さで心臓が脈打ってて、息が苦しい。

ああ、ビックリした、夢だった。

そう思いながら、頭の別の部分で痛みがあるかどうか自分の体に注意を向けた。
大丈夫だ、バクバク言ってるだけで、痛くはない。悪夢を見たから、驚いただけだ。

「大丈夫だ……大丈夫……」

胸の鼓動が治まるまで、声に出して自分に言い聞かせる。
やがて呼吸が落ちついて、バクバクもなくなった。

握りしめていた布団から手を離し、目を開ける。
ヒガシヤマさんの家だ。

あっ。

昨夜のことを思い出して布団をめくる。
パンツ履いてねぇし。

「マジか」

こっちは夢じゃなかった、ってことだ。
その証拠に喉の調子も何だかおかしい。
ベッドサイドにあったミネラルウォーターのペットボトルを開けて、ゆっくり飲んだ。
頭が全然クリアにならない。

のろのろと起き出して服を着ていると、裸で腰にバスタオルを巻いたヒガシヤマさんが部屋に入って来た。シャワーを浴びて来たらしく、ボディーソープの匂いがする。

「起きてたか」

「おはよう、ございます」

均整の取れた体つきに思わず見惚れた。
細いのに腹筋が凄い。

「顔色が悪いな」

近付いて来てオイラの首筋に触れた。
この人、前も思ったけど手が冷たい。
昨夜はどうだっただろう、と考えたけど思い出せなかった。

唇が降って来て、ちゅっ、とキスされる。
ぼんやり見ていたら、ヒガシヤマさんの目がちょっとだけ歪んだ。
笑ったのかな……。

「調子が悪くなければ今日は一緒に出掛ける。
お前もシャワーを浴びて来い。
物足りないなら、もっと目が覚めるようなことをしてやろうか?」

頬を撫でてくれる指が気持ちいい。

「智? 具合が悪いのか?」

今度は目がちょっとマジになったから、心配してくれてるんだとわかった。
イケメンだし、喋り方も上からで、クールな感じなのに。

触られると、やっぱり、優しいところもあるんだな、と思う。
もしかしたら、感情表現が下手な人なのかもしれない。

寝起きの頭でボーッと見ていたら、またキスされた。

「……ん」

舌が入ってきて、しばらく開放してもらえず、お蔭でオイラはちゃんと目が覚めた。


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