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夜の影

第30章 movin' on

【智side】

スーツ姿のヒガシヤマさんと着古したダウンジャケットの俺と。

傍からはどう見えるんだろう。
彼の年齢は知らないけど、多分30位?
兄弟には見えないだろうな。

タクシーの中でヒガシヤマさんは何度か電話をしていて、オイラは邪魔しないように窓の外を眺めながら今朝方見た夢を反芻する。

どうして忘れていたんだろう。
あれは本当にあったことだ。

時間が経ってから思い出すこともある、と刑事さんが言っていたらしいけど、それにしたって今まで全く思い出さなかった。

きっと、あのハヤシさんが犯人だ。
でも顔が思い出せない。
夢の中では彼だと認識して喋ってて、顔も見た筈なのに、目が覚めてからはもうダメだった。

目を閉じて思い出そうとしているうちに、車が停まる。
最初に連れて行かれたのは看板も出ていないビルの一室。入ってみたら美容室と同じ感じでベッドとかシャンプー台があった。

「やだ~ノリ~、今日も素敵~」

目をハートにして出て来た人は180cm以上はありそうなガタイの良い男性で、モミアゲと顎鬚が繋がった濃い顔のイケメン。

「ヒロ、急に悪いな」

「いいのよ、会えて嬉しい」

内心で、うわ、と思ったけど、ヒガシヤマさんが普通にその人の肩を抱き寄せてハグしたから、黙って様子を見てた。

「磨いてやってくれ。
初物だ。手を出すなよ」

「ちょっとノリ、挨拶は?」

ヒロ、と呼ばれた人は、唇を突き出してキス待ちの顔をしてる。

「ん~」

「相手は〇〇国だ。初会は明日。
あちらの予定次第だが明後日が裏。
返して3日後か。
上品に仕上げて欲しい」

「んっ」

ヒロさんは全然めげてない様子で、ふりふりとお尻を揺らしていた。
ヒガシヤマさんが溜息を吐く。

「……美人に仕上げられたらな」

キャハッ、と嬉しそうな悲鳴が上がった。
ようやくヒガシヤマさんから体が離れる。

「ご褒美ね! 頑張る!!
お茶ぐらい飲めるんでしょ?」

「いや、終わる頃に迎えに来る。頼んだぞ」

「はぁい」

「智、俺は仕事がある。
戻るまでイイコでな」

「あ、はい」

熱を測るようにオイラの額に手を置いた。

「大人しいが本当に大丈夫か?」

頷くオイラをじっと見る。

「ヒロは昔ウチの玉だった奴だ。腕は確かだから安心しろ」

ちゅっ、とキスをした後、頭をポンポンとして出て行った。


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