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夜の影

第30章 movin' on

【智side】

昨日から何度も何度もキスされて、段々感覚がマヒしてきた気がする。

普通じゃない、よ、な?
外国じゃなくて日本だよ?
そんなキスとかする?

付き合ってるわけでもないんだし。
オイラは思わず自分の唇に指で触れてみた。

ハッ、と気づいて自分の思考に驚く。
付き合ってる?
違うだろ、男同士だぜ?

「なんか、わかんなくなってきたな……」

「アキラ~、上着脱いで~」

声に振り向くとヒロさんが美容室のカッパみたいのを広げてる。
アキラ、って誰?

他にも人が居るのかと思って辺りを見回すけど、誰も居ない。

「ほら、アキラ。シャンプーするから」

「僕?」

「そうよ、アキラは貴方でしょ。
え? もしかして聞いてない?
やだぁ、あの人、またアタシにレクチャーさせる気ぃ?  んも~」

は?

「あ、そっか、初物だもんね。ごめんね。
どうりで甘々だと思った。
貴方ラッキーよぉ、ノリに仕込まれるなんてぇ。
羨ましいわぁ」

ヒロさんは急に視線を遠くにやると、うっとりした顔になる。
大体わかったぞ。
つまりこの人は、ちょっとアレなんだな。
夢見るタイプというか。妄想系?

そう納得をつけて、オイラは深く考えないことにした。



それから、シャンプー台に乗せられて。
頭をマッサージされながら「暁」の話を聴いた。
それでオイラは、ようやく自分の今の立場を認識することが出来た。

まず「暁」というのが、二宮カズナリが言っていたデートクラブ? のことで、日本にやって来る外国人相手に男性スタッフを派遣してる。

その、つまり、デートっていうか、カラダ込みで。
そこの代表がヒガシヤマさんだった。

「お客さんが日本に滞在の間はずっと貸し出されるから、拘束される時間は長くなっちゃうけどね。
その分もらえる額も大きいし、1回仕事に出たら普通のアルバイト1か月分くらいにはなるわね。
頑張れば年季も短くなるわ」

オレンジの匂いがするアロマを焚かれてて、頭のツボを押されながら、トロンとリラックスして聴いた話には現実感が全くない。

まぁ、オイラはそもそも世の中のことなんて、良く知らないけれど。


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