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夜の影

第30章 movin' on

【智side】

「暁は客の審査も厳しいし、玉も簡単には採用しないの。
単純にオトコが好きだから、って理由では絶対に雇わない。余程の事情が無いとね。
だから逆に安心よ。
玉をやってる子達も口が固いし。
目先のカネ欲しさに変なゲイビとか出てごらんなさい?
一生の汚点だからね」

「玉、って何?」

「あら、ごめんなさい、隠語よ。
派遣されるスタッフのこと。
流石に大っぴらには出来ないから昔の廓言葉を隠語として使ってるの。上臈さんと同じね。
ほら、時代劇とかで、こいつは上玉だぜ、とかって悪いお兄さん達が言うじゃない。
玉、ってのは遊郭でお勤めしてるお姉さんたちのことよ」

クルワ言葉。ジョウロウ。ユーカク。
知らない単語ばかりだったけど、話が止まってしまうのでそのまま聴いた。

ヘッドスパって言うらしい頭のマッサージ中、ヒロさんの声は穏やかなトーンで圧が無く心地良い。

「……ヒロさんは声が良いですね」

「そう?  嬉しい。貴方イイコね」

思ったままを言っただけなのに、そこからヒロさんの声が増々優しくなって。
だから、オイラも静かな気持ちで居られた。



ヒロさんによると、相手と玉の初顔合わせのことを「初会」と言うらしい。

これは本当にただの顔見せで、お茶を飲む程度。客は第一印象で玉が気に入らなければ、チェンジの希望を出せる。
それがオイラの場合は明日。

チェンジされなければ次が「裏」だ。
客とゆっくり食事をして、相性を探る。
これはお泊り無しで、ここで終わる場合もある。

客は日本に滞在中、一週間ぐらい玉と寝食を共にするわけだし、安くはない額がかかる金持ちの遊びだ。
だから、自分の好みに合うかどうか玉を見極める為の機会になってるんだそうだ。

「暁」は単にヤルだけの男娼を派遣するのではない。日本滞在中のパートナーとして、玉は常に客に寄り添うことになる。
連れている玉で客の品格が問われることもあるらしく、見た目だけでなく所作や立ち居振る舞いもチェックされる。

で、客の眼鏡にかなえば3回目で正式に玉を貸し出す。これを「裏を返す」と言う。

裏を返すまではヒガシヤマさんか、サカモトさんが同行するけど、その後は一人になるとの事だった。

「アキラ」っていうのは玉が共通して名乗る名前。

「だから貴方もアキラよ。
クラブ暁のアキラ」

ヒロさんが優しく言った。


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