夜の影
第31章 RIGHT BACK TO YOU
【紀之side】
「……あんね、オイラ思い出したの。言っていい?」
俯いて言い難そうに訊いてくる。
「何だ?」
「ケン君と会ってた公園に一人で行った時ね、教会で、ハヤシさんに変な事されそうになった。
怖くて走って逃げたんだけど。
子供だったから、オイラ意味が分からなかったんだ。
たまたま誰も居なくて。
こっちにおいで、って連れて行かれた部屋で、床に寝るように言われた」
「……それで?」
話の内容に驚いて、手の動きが止まっていた。
「ズボンに手を掛けられそうになって、怖くなって逃げたんだよ。
それだけなんだけど、さ。
今考えると、あれは……そういうこと、だったんじゃないかな。
何か普通じゃないことをされそうになった、ってのは、その時も感じてたの憶えてるんだ。
でも誰にも言わなかった。
なんでだろ、わかんないけど。
多分、誰かに言ったら、叱られて大騒ぎになるような気がしたんじゃないかな。
他の大人には、知られない方が良いことだと思ったんだと思う」
智が俺の手を握る。
不安と緊張が伝わって来た。
「そんで。
その次の日に、ケン君が居なくなったんだ。
ずっと忘れてて、昨夜、夢見て思い出した。
もしか、さ。
もしか、オイラがすぐ言ってたら、ハヤシさんはあの時にすぐ捕まって、ケンくん」
「お前は悪くない」
「でも」
「聴け。サカモトの弟のことはお前の責任じゃない。
逆だったらどうだ?
お前なら怖くて逃げた友達を責めるのか?
誰にも言えなかったことを責めるのか?
いいか、智。
悪いのはお前じゃない、犯罪者だ」
智は黙ったまま答えない。
「お前はもう小さな子供じゃない。
奪われる側に居る必要はないんだ」
なるべく穏やかに聴こえるように、ゆっくり言った。
「無理はするな。
今回の件、止めてもいい。
誰もお前を責めない。
このまま家に送ってやろう」
パッと顔を上げた目があまりに無防備で。
カズといい、子供ってのはどうしてこうなのか。
「どうする?」
握られた手に、ギュッと力が入った。
「……アンタのとこに帰る」
智はまた俯くと、消え入りそうな声で、そう俺に告げた。
「……あんね、オイラ思い出したの。言っていい?」
俯いて言い難そうに訊いてくる。
「何だ?」
「ケン君と会ってた公園に一人で行った時ね、教会で、ハヤシさんに変な事されそうになった。
怖くて走って逃げたんだけど。
子供だったから、オイラ意味が分からなかったんだ。
たまたま誰も居なくて。
こっちにおいで、って連れて行かれた部屋で、床に寝るように言われた」
「……それで?」
話の内容に驚いて、手の動きが止まっていた。
「ズボンに手を掛けられそうになって、怖くなって逃げたんだよ。
それだけなんだけど、さ。
今考えると、あれは……そういうこと、だったんじゃないかな。
何か普通じゃないことをされそうになった、ってのは、その時も感じてたの憶えてるんだ。
でも誰にも言わなかった。
なんでだろ、わかんないけど。
多分、誰かに言ったら、叱られて大騒ぎになるような気がしたんじゃないかな。
他の大人には、知られない方が良いことだと思ったんだと思う」
智が俺の手を握る。
不安と緊張が伝わって来た。
「そんで。
その次の日に、ケン君が居なくなったんだ。
ずっと忘れてて、昨夜、夢見て思い出した。
もしか、さ。
もしか、オイラがすぐ言ってたら、ハヤシさんはあの時にすぐ捕まって、ケンくん」
「お前は悪くない」
「でも」
「聴け。サカモトの弟のことはお前の責任じゃない。
逆だったらどうだ?
お前なら怖くて逃げた友達を責めるのか?
誰にも言えなかったことを責めるのか?
いいか、智。
悪いのはお前じゃない、犯罪者だ」
智は黙ったまま答えない。
「お前はもう小さな子供じゃない。
奪われる側に居る必要はないんだ」
なるべく穏やかに聴こえるように、ゆっくり言った。
「無理はするな。
今回の件、止めてもいい。
誰もお前を責めない。
このまま家に送ってやろう」
パッと顔を上げた目があまりに無防備で。
カズといい、子供ってのはどうしてこうなのか。
「どうする?」
握られた手に、ギュッと力が入った。
「……アンタのとこに帰る」
智はまた俯くと、消え入りそうな声で、そう俺に告げた。