夜の影
第32章 愛に似たもの
【紀之side】
溜息が出る。
通常、暁では初物は馴染みの太客に回す。
世話をお願いしたい、と伝えて初めての客になってもらうことで客の顔を立てるのだ。
初物は貴重だ。なかなか有りつけない。
客にとっては自尊心をくすぐられる頼みだ。
余裕があるところを見せようとするから玉を丁寧に扱ってくれるし、無理強いせず連れ歩くだけで終わることも多い。
大抵はその後も贔屓にして、同じ子を指名してくれる。
そもそも初物は仕込みからして、本来はもっと時間をかけて負担を減らしてやっていた。
今回は何もかもがイレギュラーなのだ。
「待って、じゃぁ、そのお医者さんに当てるのがサトシ?」
頷いて目を開けると、ヒロが咎めるように俺を見ていた。
「二宮の今の当主、あれの長男が香港に居る。
情報をもらうのにMr.Chanには力を貸してもらっている都合上、断りにくい。
彼は知っての通りプライドも高い。
うさん臭い催眠療法士に心酔しているようだ、とマツオカからの報告があって、俺も話半分に聴いていたが。
まさか暁に紹介して来るとは予想外だった。
どうしたものかと考えていたところに、カズが智を連れて来たんだ。
智は……カズの兄だ。腹違いのな」
「……マジで?」
「しかもサカモトの弟が絡んでる可能性がある」
「行方不明の? 嘘でしょ!?」
大声を出したヒロが、気づいて背後を振り返る。つられて俺もそちらを見たが、誰も居ない。
「智の幼馴染なんだそうだ」
「誰が?」
「サカモトの弟」
「ええ~~!?」
また声が大きくなった。
俺が口元に人差し指を持って行くと、慌てて両手で口を塞いだ。
その様子を眺めつつ、やはり溜息が出てしまうのを止められない。
誤魔化すために立ち上がってベランダに通じる窓へ向い、カーテンを開けた。
重く垂れ下がってきた雲からは雨が落ちている。
雪にならなければ良いが。
この分では飛行機は問題なく到着するだろう。
吐いた息が窓を曇らせた。
溜息が出る。
通常、暁では初物は馴染みの太客に回す。
世話をお願いしたい、と伝えて初めての客になってもらうことで客の顔を立てるのだ。
初物は貴重だ。なかなか有りつけない。
客にとっては自尊心をくすぐられる頼みだ。
余裕があるところを見せようとするから玉を丁寧に扱ってくれるし、無理強いせず連れ歩くだけで終わることも多い。
大抵はその後も贔屓にして、同じ子を指名してくれる。
そもそも初物は仕込みからして、本来はもっと時間をかけて負担を減らしてやっていた。
今回は何もかもがイレギュラーなのだ。
「待って、じゃぁ、そのお医者さんに当てるのがサトシ?」
頷いて目を開けると、ヒロが咎めるように俺を見ていた。
「二宮の今の当主、あれの長男が香港に居る。
情報をもらうのにMr.Chanには力を貸してもらっている都合上、断りにくい。
彼は知っての通りプライドも高い。
うさん臭い催眠療法士に心酔しているようだ、とマツオカからの報告があって、俺も話半分に聴いていたが。
まさか暁に紹介して来るとは予想外だった。
どうしたものかと考えていたところに、カズが智を連れて来たんだ。
智は……カズの兄だ。腹違いのな」
「……マジで?」
「しかもサカモトの弟が絡んでる可能性がある」
「行方不明の? 嘘でしょ!?」
大声を出したヒロが、気づいて背後を振り返る。つられて俺もそちらを見たが、誰も居ない。
「智の幼馴染なんだそうだ」
「誰が?」
「サカモトの弟」
「ええ~~!?」
また声が大きくなった。
俺が口元に人差し指を持って行くと、慌てて両手で口を塞いだ。
その様子を眺めつつ、やはり溜息が出てしまうのを止められない。
誤魔化すために立ち上がってベランダに通じる窓へ向い、カーテンを開けた。
重く垂れ下がってきた雲からは雨が落ちている。
雪にならなければ良いが。
この分では飛行機は問題なく到着するだろう。
吐いた息が窓を曇らせた。