テキストサイズ

夜の影

第33章 初会

【Mr.Chan視点】

定宿にしているホテルのロビーラウンジへ時間丁度に降りていくと、ヒガシヤマとアキラが待っていた。

私のアキラではない。
林医生にと頼んでおいた初物のアキラだ。

自分の相手ではないが、興味がある。
意識的に笑みを浮かべ彼らに向かって歩きながら、気づかれないように観察した。

私の好みではないが、流石に「暁のアキラ」だ。品があって非常に美しい。

ヒガシヤマと挨拶を交わしながらチラリと目をやった時に、彼は私に微笑んで見せた。
初物だけあって初々しいものだ。

何も知らないこの子を泣かせたら、さぞかし……。
そう思うと他人に回すのは惜しい気もするが。

「今回は無理を言って申し訳なかったですね」

「いいえ、日頃からお世話になっている大人のご依頼ですから、どうぞお気になさらずに」

「私のアキラは元気ですか」

「ええ。お声が掛からなかったと知れば気落ちするでしょう」

涼しい顔で言われてしまう。
今回、林医生にとアキラを頼んで私自身はアキラを呼ばなかったことを、暗に非難しているのだ。

「ははは、そうでもないでしょう。
あの子には先月香港で会ったばかりです。
少し休ませてやらないと、オジサンの相手ばかりさせてはかわいそうだ。
私は後見役に徹します」

言いながらソファに掛けるよう促す。

「ヒガシヤマさん、実はお詫びしなくてはならないことがあります。
林医生ですが、少し遅れてしまうと連絡がありました。
この雪で難儀しているようです」

腰を下ろしてから、私はヒガシヤマへ丁寧に告げた。
日本人は時間にうるさい。
暁は特に約束事を重んじる。

この男は表情が読めないが、初会で遅刻となれば林医生の印象は確実に下がった筈だった。

「そうですか。林先生は日本の交通事情にはお詳しいのかと思っていました。
確かに東京は雪に弱いですね。
それでは30分、待ちましょう」

「30分! それはちょっと短いですね」

驚いて言うと、微笑みながら平然と返す。

「皆さま同じですから」

「わかりました」

近付いてきた店の者にグラスでシャンパンを頼み、詫びの印とした。



ストーリーメニュー

TOPTOPへ