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夜の影

第37章 裏・返し2

【智side】

心の準備をするのに、わざと時間をかけて入浴した。

さっき部屋に居た若い男は、確かに「ケン」と言ってた。
やっぱり一緒に来ているのはケン君なんだ。間違いない。
何とか早くヒガシヤマさんに伝えないと。

言われた通り、部屋にはワインが届いていたから、大分気持ちが楽になっていた。
何とか眠らせてヒガシヤマさんに電話をしよう。

けど、気を抜いたらダメだな。
しないで済めばいいけど、ヤルとなったら拒むのはおかしいし。

だからオイラも腹を決めてた。

ヒロさんに教わったように躰を洗って。
湯船で自分に言い聞かせる。

俺を初めて抱いたのは、あの人。
躰全部に触れて、舐められて、キスされて。
中も外も、擦られた。

思い出す、あの感じ。
抵抗も出来ないまま、ただ感じてた、あの人の息遣い。
オイラの上に重なった躰の重さ。
我慢するような、あの人の声。

「はぁ……」

思い出すと躰の中心がムズムズしてくる。
思わず自分のを握った。
ここに初めて触ったのもあの人。

俺の所に帰って来い、って、言ってくれて。
嬉しかった。

とりあえずワインを何とか飲ませて。
駄目だったら、ヤルしかない。

相手があの人だと思えばいい。
大丈夫。
大丈夫だ。

それにしても……気になるのはさっき部屋にいた若い男。
同行した日本人が二人、って言ってたから、ケン君じゃない方なんだよな?

どこかで見たような気がして。
知ってる人だと思うけど、でも、オイラが知ってる人はもっと怖い、って言うか、ヤバイ感じの人じゃなかった?

「夢で見たのかな……」

まさかね。
知らない人を夢に見るなんて、変な話だ。

話せるタイミングがあったら、こっそりケン君のことを訊いてみよう。

のぼせる前に、と浴槽から出た。



部屋に戻るとハヤシさんは難しい顔でソファに座っていた。

「お待たせしました。先生も、どうぞ」

話しかけると急に優しげな顔になる。

「ああ、お帰り。
僕は風呂はまだいいんだ。
こっちにおいで」

そうだ、オイラが子供の頃に見てた笑顔が、こんな感じだった。

何かを誤魔化そうとする時の笑顔、っていうか。
要は作り笑いなんだ。
嘘くさい。

子供の時は、それが解らなかった。
優しい人だと思っていたのに、ケン君を攫ってどうしたんだよ。

内心の怒りを隠して隣に座った。


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