夜の影
第37章 裏・返し2
【智side】
こめかみに触れた指にグッと力が入って圧迫される。
「目を閉じて」
肩を抱かれて耳元で言われた。
その声を聴いた時に、あっ、と思い出す。
「俺の声を憶えてるな? 言うことをきけ智」
小声で囁くように言われた瞬間に、血が下がる感覚があった。
この人、トイレで。
「催眠というのはね、全ての人に効くわけじゃないんだ。
当然掛かりにくい質の人も居る。
どうやら君はとても掛かりやすいんだね。
これなら僕がやっても良かったかな?」
ハヤシさんの声がした後、顔の前でパチン、と指を鳴らす音がした。
途端に自分の意志とは関係なく全身の力が抜けて、体がゆっくり後ろに傾いていく。
怖い人がオイラの後ろに回って、背中から抱かれた。
「僕がやりますよ、先生がわざわざやることないです」
視界を奪われたまま、左右にゆらゆらと揺らされて。
逃げなくちゃと思うのに、足にも手にも、力が全然入らない。
「そう? じゃぁ、僕は飲みながら見物しよう。
剛、まずは名前だ。本名を訊き出せ」
パチン。
また指を鳴らす音がする。
「本当の名前は?」
何? 何て言われたの?
ゆらゆらブランコみたいに揺らされて、頭がふわっとしてる。
「本当の名前は何て言うの?」
パチン。
「……ア、キ、ラ」
「お前の本名は? 仕事の名前じゃない、本名を」
パチン。
智、と言おうとするのに。
「アキ、ラ……」
「剛!」
ハヤシさんの苛々した声がする。
「珍しくない名前だし、本名もアキラなんじゃないですか?」
「確かめろ!
本名が有るのと無いのでは術のかかりが違うことぐらい、お前も知ってるだろ!」
パチン。
「お前の本当の名前はアキラ?
本名を言って?」
オイラの本当の名前はアキラじゃない、智だ。
「……あ……ア、キ、ラ」
「これは駄目ですね。名前に関してはかなり強いロックが掛かってます。
やっぱり先生がやりますか?」
チッ、と舌打ちが聞こえる。
乱暴な声が、続けろ、と喚いた。
こめかみに触れた指にグッと力が入って圧迫される。
「目を閉じて」
肩を抱かれて耳元で言われた。
その声を聴いた時に、あっ、と思い出す。
「俺の声を憶えてるな? 言うことをきけ智」
小声で囁くように言われた瞬間に、血が下がる感覚があった。
この人、トイレで。
「催眠というのはね、全ての人に効くわけじゃないんだ。
当然掛かりにくい質の人も居る。
どうやら君はとても掛かりやすいんだね。
これなら僕がやっても良かったかな?」
ハヤシさんの声がした後、顔の前でパチン、と指を鳴らす音がした。
途端に自分の意志とは関係なく全身の力が抜けて、体がゆっくり後ろに傾いていく。
怖い人がオイラの後ろに回って、背中から抱かれた。
「僕がやりますよ、先生がわざわざやることないです」
視界を奪われたまま、左右にゆらゆらと揺らされて。
逃げなくちゃと思うのに、足にも手にも、力が全然入らない。
「そう? じゃぁ、僕は飲みながら見物しよう。
剛、まずは名前だ。本名を訊き出せ」
パチン。
また指を鳴らす音がする。
「本当の名前は?」
何? 何て言われたの?
ゆらゆらブランコみたいに揺らされて、頭がふわっとしてる。
「本当の名前は何て言うの?」
パチン。
「……ア、キ、ラ」
「お前の本名は? 仕事の名前じゃない、本名を」
パチン。
智、と言おうとするのに。
「アキ、ラ……」
「剛!」
ハヤシさんの苛々した声がする。
「珍しくない名前だし、本名もアキラなんじゃないですか?」
「確かめろ!
本名が有るのと無いのでは術のかかりが違うことぐらい、お前も知ってるだろ!」
パチン。
「お前の本当の名前はアキラ?
本名を言って?」
オイラの本当の名前はアキラじゃない、智だ。
「……あ……ア、キ、ラ」
「これは駄目ですね。名前に関してはかなり強いロックが掛かってます。
やっぱり先生がやりますか?」
チッ、と舌打ちが聞こえる。
乱暴な声が、続けろ、と喚いた。