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夜の影

第37章 裏・返し2

【林視点】

催眠暗示をかける時には、被験者を怯えさせないように優しい声を掛けていくのが鉄則だ。でも剛のやり方は違う。

どこか命令する響きを帯びて、相手を操るというよりも、支配していく。最近では施術を見るたびに、心中密かに敗北感と嫉妬を味わわされていた。

明らかに術師としては剛の方が僕よりも上。
剛に名前を訊き出せないのなら、僕がやっても無駄だろう。

「あぁ……あ、あぁ……」

バスローブの前をはだけて脚を開いたアキラは、すっかり 中心を勃たせて、先程から喘ぎ声をもらしていた。
既に深い催眠状態に入っていて、視界を奪っていた剛の手は外れている。

幼さを残した美しい顔は目を閉じている方がより 煽情的だった。
喉元辺りから肌が上気して、顔を朱に染めている。

何とも艶めかしく、観客でもないのに僕まで股間が熱くなってきた。
儀式に差し出すのでなければ、是非にも僕が躰を開いて教え込みたいくらいだ。

平然を装うために先程からチビチビとワインを流し込み、喉が鳴るのを誤魔化していた。

アキラの脚の間で、朱く色づいたソレから雫が零れ落ちている。

初々しいアレを思う存分いたぶってやりたい。

ゴクリと自分の喉が鳴る。

部屋が暑い。
飲み過ぎたのか。

全く触られていないのに、剛にかかれば言葉だけでエレクトさせることなど簡単だ。

昔は僕だって同じようにやれたものを。
一度の失敗が尾を引いて、スランプから抜け出せないでいた。

「さぁ、手を離して。擦るのを止めるんだ」

実際にはアキラ自身に触れている者など居ない。

言葉で記憶を蘇らせて、いつも自分が一人でしている行為を思い出させているだけだ。

催眠とは結局のところ記憶の再現だった。
例えば大嫌いな物を食べさせようとするとき、それを大好きな物だと思い込ませるのは簡単だ。
美味い、という感覚を思い出させて、すり替えてやればいい。

全ては本人が実際に経験をした記憶と現実を、すり替えることによって可能になる。

逆に言うと、生まれてから一度も味わったことが無い感覚は、想像でしか再現出来ない。

甘いから食べてごらん、キャラメルの匂いがするよ、と誘導しても、甘いものを一度も食べたことが無く、キャラメルの匂いも知らない人間には通用しないものだった。


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