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夜の影

第38章 時代

【紀之side】

「社長!」

ホテルの一室で、仮眠をとりながら待機していると、PCの画面を睨んでいたサカモトから声がかかる。

「どうした」

眠っていたわけではなかったから、すぐに起き上がった。
体調が万全でない俺を気遣って灯りを絞った部屋の中、PCのディスプレイがサカモトの焦った顔を照らしていた。

「サトシ君に持たせた携帯、電源が落ちたようです」

「2台ともか? 発信機は?」

サカモトがPC画面を操作してGPSの情報を確認する。

「移動しています」

そうサカモトが答えた時、俺のスマホが鳴った。
二人顔を見合わせる。

「すぐに出られる用意をしていてくれるか」

「はい」

スマホ画面には非通知の文字。
応答してすぐ、スピーカーホンに切り替えた。

「……東山だ」

『こんばんは。僕が誰だかわかりますか?』

聞き覚えの無い若い声が言った。

『大野智は僕が預かりました。
もう部屋には居ません』

「……誰だ」

サカモトと二人で顔を見合わせる。
智が居る部屋の様子を見に行くよう、視線でサカモトに合図した。

『そこにサカモトさんも居ます?
だったら僕の話をしっかり聞いた方が良いですよ。
弟を取り戻したかったらね』

「どういうことだ」

言いながらサカモトに視線で合図をすると、すぐに通じて頷いた。二人、いつでも外に出られるようにコートを取りに行ったのだ。

『健はお兄さんとの思い出の場所に居ます。
タイムリミットは3時頃までかな。
見つけられれば健は助かります。
林はこの後それどころじゃなくなるから、健のことは諦めますよ。
健を取り戻すならチャンスは今しかない』

クツクツと嗤う声がした。
コートを手に戻って来たサカモトが固まる。
PCに表示されている時刻は23:11。
時間が無い。

「具体的な場所を教えろ。
ケンは兄貴が待っている家には戻って来なかった。
どこに居る?」

『兄貴ならわかんだろ?
自分で考えろよ。
ああ、それから、大野智、もう戻らないから』

声を出さず、サカモトに「行け」と伝える。
智の名前が出て迷う様子を見せるサカモトに、無言のまま重ねて指示した。

智のことは俺が。
弟のことはお前が守れ!

頷いてサカモトが出て行った。


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