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夜の影

第38章 時代

【紀之side】

『今回、林の目的は暁のアキラを拉致すること。
お告げがあったからね。
健のことは諦めても、アキラのことは諦めない。
何しろ失敗したら教団から消されてしまうんでね』

「教団?」

『ふん、知らない方が良いよ。
アンタに関係ないだろ。
抱えている男娼が一人居なくなったところで問題あります?
ああ、金儲けできる道具が無くなるか』

こいつは何を言っている?
何を知っていて、何が目的だ?

PC画面のマップではアイコンが銀座方面へ向かってる。
ここからそう遠くない。
コートを羽織りながら会話を続けた。

「智は無事なのか」

『だから、貴方には関係ないでしょ。
あ、陳大人は林の正体は知りません。
訊いても無駄です。
まぁ、貴方も諦めた方が良いですよ。
ヤバイ宗教団体なんかに関わったら人生お終いです。
智のことは忘れるんですね。じゃぁ』

「待て!! 切るな!!!」

『…………』

今までの取り付く島もない様子から焦って言ったが、意外にも相手は電話を切らない。

激したら負ける。
冷静になれ。

「智は男娼じゃない。
幼馴染を救いたくて今回の話に乗っただけだ。
俺はあいつを元居た場所へ戻してやる義務がある」

『へぇ〜、義務。
男の味を覚えさせておいてよく言う。
どうせ便利に使うつもりだったんだろ。
アンタらの魂胆はわかってる、俺は騙されない』

「違う、ケンを救う為にやむを得ずのことだ」

『……ふん、信じると思うのか。
良いことを教えてやる。
俺は智の名前を預かった。
いつでも好きなように暗示を掛けられる。
アイツはもう大野智には戻れないよ』

暗示?
暗示とはなんだ?

こいつは…………。

「お前、林のアシスタントか」

『わお、ビンゴ。あったまいーなー』

林の部屋へ行こうとドアへ向かうと、見透かしたように言われた。

『ちなみに俺、もう外だから探しても無駄だよ。
林はアンタの寄越したワインで寝っ転がってる。
起きても何も知らないしね』

つまり、発信機を頼りに追いかけるしかない。

「智は渡さない」

『じゃぁ見つけてみろよ。
智には暗示を掛けてある。
アイツが本当に信頼した奴が相手なら、自分の名前を思い出すさ。
ふふっ、せーぜー頑張って。じゃあね。
あ、運転手さん、ターミナルじゃなくて』

通話が切れた。


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