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夜の影

第40章 恋

【智side】

あの人、ヒガシヤマさんと俺は、今回たまたまちょっと繋がっただけで、元々何の関係もない。

今夜一晩泊めてもらったとしても、明日が来たら、じゃぁ、気をつけて帰れ、って。
きっと普通に言われて、それで終わるんだ。

ちょっと、そうなったら多分しんどい。
絶対に会いたくて思い出す。
せっかく引っ込んでた涙がまた出て来た。

「俺、行くとこないんだなぁ……」

口に出したらまた泣けて来た。

世の中に一人っきりの人は沢山いる。
みんな、しんどい時はどうしてるんだろう。

別にオイラだって、誰かとつるむのが好きな方じゃないし、自分のペースを乱されるのは基本的に苦手だ。
つるむ連中の楽しそうな様子を見ても、ちっとも羨ましいとは思わなかった。

一人で絵を描いてたら満足だったんだ。

今までは。

みんな、辛い時、一人になれる場所でじっとして、痛みや悲しみが過ぎていくのを耐えてるんだろうか。
それとも別の何かで誤魔化せるものなの?
オイラにはわからない。

ただ、あの人に会いたい。

ポケットからスマホを取り出してロックを解除する。
でも。
ゴウが言った言葉が、意味を持って思い出されてきて。



『お前も、もうこのままヒガシヤマとは縁を切れよ?』

『若い男を遣ってボロ儲けしてる連中なんて皆同じだ』

『美味しいことを言われても全部嘘。信じるなよ』



スマホの画面を眺めているうちにスリープすることの繰り返し。
ヒガシヤマさんの番号をアドレス帳で開いてはみても、発信することが出来なかった。



『アキラの仕事が終わったら、智に戻って俺の所に帰って来い』



嬉しかった。

でも、もし迷惑だったら?
オイラはあの人と一緒に居たい。
だけど家に帰されたら?
その先はまた一人?

考えると、怖い。

怖くて動けない。

家族がみんな死んだ今、オイラのことを愛して笑いかけてくれる人は、誰もいない。



『智、俺を信じられるか』




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