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夜の影

第40章 恋

【紀之side】

額に突き付けられた銃口。
目の前には智と変わらない年恰好の子供。

まだ十代だろう。
幼さを残した顔で、憎らしいほど不遜に嗤っている。

耳鳴りは治まりつつあるが、今の自分で殴り合いをしてもまともに打てるのは1.2発だ。
銃を持っているうちは手を出せない。
睨み合いながら、コイツの望みは何かと考えた。

日本に居る半グレのガキならば、単に頭が悪いか、承認欲求が行き過ぎた自己否定の裏返し。構う必要もない。
しかしコイツは、多分馬鹿でもなければ、コンプレックスの虜でもないだろう。
所詮そんなものは安全であるからこその苦しみだ。

『あいつ健の友達だし、可愛かったからさ、アンタから自由にしてやったんだよ。
アンタ等みたいに、ガキを食いものにして儲けようとする連中には反吐が出る』

ケンの友達だから、か。
さっきの言葉からすると、智に対して害意があるのではないらしい。

こいつの目には、俺は智を縛りつけて金儲けするヤツに見えている訳だ。
一体今まで、大人達にどれだけ搾取されてきたのか。

「お前の望みはケンが逃げ切る事だろう?
何故、自分も一緒に逃げようとしなかったんだ」

ピクリと眉が動いた。

「これだけの芝居を打ってでも逃がしたかった。
それ程大事なら、共に逃げれば良かったものを。
守り切る自信がなかったか?」

「あ?」

眉間に怒気が滲む。

「そこまでの相手なのか、と訊いてるんだ」

「…………」

警戒心を顕すように 銃口が更に強く押しあてられた。

「サカモトとはずっと一緒にやってきた。ケンが戻るなら俺にとっても無関係じゃない。
俺も相手を知っておく必要がある。
それに一人預かるも二人預かるも同じだ。
お前も一緒に来たらどうだ?」

「は? 何言ってんだ。
アンタ、健に客を取らせる気か」

「落ち着け、誰もそんなことは言ってない。
サカモトの弟に客を取らせる筈が無いだろう。あいつは俺にとっては大事なパートナーだ。
そうでなければ今回みたいなキナ臭い話、受けなかったさ。
そもそも俺の目的は男娼を使って儲けることじゃない。
そこら辺の風俗と一緒にしてもらっては心外だな」

「…………」

「ほとぼりが冷めるまで、二人とも身を隠す必要があるだろうから訊いてるんだ。
守る為には相手を知っておく必要がある」


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