
夜の影
第40章 恋
【紀之side】
腹が立ったのは自分の中にも疚しい気持ちがあったからだ。
決して便利に使おうとしたわけではない。
生きるのに飽き飽きしている俺には、重しは少ない方が良い。
俺にとっては、わざわざ智まで抱え込む義理も無かった。
だが、あの年ごろで突然天涯孤独になってしまった智が、一人で生きるのは大変なことだ。
義理の弟であるカズに頼まれては、妾腹と言ってもいい智には断れないだろうし、それ以前に目の前にしっかりしていそうな大人が現れれば、縋りたくなるのも当然。
『今回限りにしたところで、男を知ってしまって元の自分にスンナリ戻れると思うの?』
自分の幼馴染が絡んでいると知って、智は俺が何度言っても止めないと答えた。
ああやって抱いてやる以上に俺に何が出来たというのだろう。
『ノリ、貴方の優しさは毒と同じよ。
甘やかして懐かせて、仕事をさせたら金を払ってポイ』
酷い言われようだが、ヒロ以外には言えないセリフだ。
誰も俺にそんなことは言わない。
智の側に立てば確かにそう見える。
『何か俺、アンタが居なくなるような気がして』
『死なないでね?』
化粧室で抱きついてきた智。
潤んだ目で俺を見上げていた。
あれには参った。
今の智が俺を慕っているのは、他に縋れるものがないからだ。
流石に見捨てられない。
こうなってしまっては、今回の件が落ちついたからと言って放り出せるわけもない。
とにかく無事を確認してからだが。
もっと欲深いタイプのヤツなら、こちらもドライに金のやり取りだけで済ませたかもしれないが、あんなにいじらしいのでは。カズとは違った意味で心配だった。
上手くサカモトと出会えていれば良いが。
智、今、どうしている?
「お客さん、お休みの所すみません。この辺りで?」
運転手に声を掛けられて目を開けると、見覚えのある通り。
信号の先に銀行の看板が見えた。
「ああ、あの銀行の前辺りで止めてもらえますか」
「はい、銀行の前ね。時間は間に合った?」
「有難うございます、ちょっと電話するんで」
返事をして、ポケットの中で握ったままだったスマホを取り出す。
駄目元で智の個人携帯を呼び出すと、電源は入っているようだ。
が、10回以上、長くコールしても応答がない。
20回までコールを数えて電話を切った。
腹が立ったのは自分の中にも疚しい気持ちがあったからだ。
決して便利に使おうとしたわけではない。
生きるのに飽き飽きしている俺には、重しは少ない方が良い。
俺にとっては、わざわざ智まで抱え込む義理も無かった。
だが、あの年ごろで突然天涯孤独になってしまった智が、一人で生きるのは大変なことだ。
義理の弟であるカズに頼まれては、妾腹と言ってもいい智には断れないだろうし、それ以前に目の前にしっかりしていそうな大人が現れれば、縋りたくなるのも当然。
『今回限りにしたところで、男を知ってしまって元の自分にスンナリ戻れると思うの?』
自分の幼馴染が絡んでいると知って、智は俺が何度言っても止めないと答えた。
ああやって抱いてやる以上に俺に何が出来たというのだろう。
『ノリ、貴方の優しさは毒と同じよ。
甘やかして懐かせて、仕事をさせたら金を払ってポイ』
酷い言われようだが、ヒロ以外には言えないセリフだ。
誰も俺にそんなことは言わない。
智の側に立てば確かにそう見える。
『何か俺、アンタが居なくなるような気がして』
『死なないでね?』
化粧室で抱きついてきた智。
潤んだ目で俺を見上げていた。
あれには参った。
今の智が俺を慕っているのは、他に縋れるものがないからだ。
流石に見捨てられない。
こうなってしまっては、今回の件が落ちついたからと言って放り出せるわけもない。
とにかく無事を確認してからだが。
もっと欲深いタイプのヤツなら、こちらもドライに金のやり取りだけで済ませたかもしれないが、あんなにいじらしいのでは。カズとは違った意味で心配だった。
上手くサカモトと出会えていれば良いが。
智、今、どうしている?
「お客さん、お休みの所すみません。この辺りで?」
運転手に声を掛けられて目を開けると、見覚えのある通り。
信号の先に銀行の看板が見えた。
「ああ、あの銀行の前辺りで止めてもらえますか」
「はい、銀行の前ね。時間は間に合った?」
「有難うございます、ちょっと電話するんで」
返事をして、ポケットの中で握ったままだったスマホを取り出す。
駄目元で智の個人携帯を呼び出すと、電源は入っているようだ。
が、10回以上、長くコールしても応答がない。
20回までコールを数えて電話を切った。
