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夜の影

第9章 ショウ

【翔side】

そんな義理ないのに。

別にサトシは得もしないんだろうに。

俺の仕込みをすることで受け取る報酬があるのかもしれないけど…。

だったら自分の好きなように、欲 望 だけ吐き出せばいい話だ。





サトシ。
俺ね、嫌じゃなかったよ。

サトシに自分の 躰 を 好きにされてた時。
凄く恥ずかしかったけど、嫌じゃなかった。

やだ、って思ってたけど、嫌じゃなかった。





何か、分からないけど。

生まれてから初めて、自分の全部を他人に見せた気がする。

たった1回しただけなのにね?

多分、俺は。
サトシに 躰 を預けた時に、心まで預けてしまった。

今は、ぐらついてる場合じゃないのに。

このままサトシと、もっと、ずっと。
一緒に居たいなんて。

ウチのことは全部、無かったことになればいいなんて。

両親に申し訳が立たない。





歯を磨く自分の手が止まっていたことに気がついて、口をすすぐ。

鏡の中の自分を叱咤するために睨んでやろうと思ったのに。
そこにもう父は居なくて。

酷く心細いような顔をした自分が映ってた。

仕方がないから、一つ頭を振ってから、考えるのをやめた。





浴室に入ると、サトシはシャワーを使って髪を洗ってて。
俺の気配に気がついて、立ったまま後ろを振り返る。

俺を見て驚いた顔をして、シャワーのノズルを持ったままの手を肩に置いた。
背中にお湯があたって温かい。

「ショウ?」

うん?

「どうした?」

なにが?
サトシこそ、何でそんな顔してるの?

心配そうに眉尻を下げたサトシが、空いてる手を俺の頬に当てる。

濡れた手で目蓋を拭ってくれて。
昨夜も同じようにしてくれたな、って思い出す。

「ショウ、何が悲しい?」

わかんない。
なんでもないから。

そう心の中で返事をして、首を振ったけど。
サトシの目が見られなくて下を向いた。





サトシ。

俺ね、あんたとは、もっと違う形で会いたかったよ。

同じように男同士で抱き合うんだったとしても。
こんなに好きになるんだったら。

もっと、普通に出会いたかった。







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