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夜の影

第11章 The first man

【智side】

古来の風習そのままに妾を持つのが当たり前の家で、俺の母は一族公認の愛人だった。

俺を身ごもったことがわかって、母はすぐに姿をくらましたから、俺のことを知る人はほとんど居ない。





別に、それで構わなかったし。

母も祖父母も死んだ今、俺はただの俺で十分だった。

カズのことさえなければ。





社長が話を続ける。

「昨日、◇◇国の〇〇氏と共に帰国したことが分かった」

「…………」

「予定ではあと数日で連中は出国する
早まってしまった場合、取り逃がす可能性がある
俺の手で片を付けたい」





「アンタ、体の調子は?」

らしくない焦りようが気になった。

もしかして…。

「再発した
医者は長くて半年、と言ってるが
そこまでは持たないだろう」

「…カズはどうなる?」

「悪いが、そういうことは俺にではなく神様に言ってくれ」

社長は言うと、片方の口の端だけ吊り上げて、整った顔を歪ませた。






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