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夜の影

第11章 The first man

【智side】

「金の心配はしなくていい
マツオカ、智にコクブンと会計士の連絡先を教えてやれ
二人ともウチの玉だった奴だ
何でも相談していい」

「おいって!」

腹が立って、社長のそばまで行こうとしたら、立ち上がったナガセさんに腕を捕られた。

「…離せよ」

はばまれたことで余計に腹が立って、俺は腰を低く落とす。

ナガセさんにはわからない。

俺や、マツオカさんの気持ちは。





「智、よせ」

空いている腕を構えナガセさんの顎を睨んだところで、マツオカさんが止める声がした。

社長が新聞を畳む音がして。

「二人とも外してくれるか」

そう言ったから、ナガセさんが俺の腕を離す。

二人が一礼して玄関から出て行くまで、俺も社長も黙ったままだった。

口惜しくて、秀麗な顔を睨みつけてやる。

視線は合わないけど、肘掛けに乗っていた社長の腕が動いて、手の平が上を向いた。





憶えてる。

そばに来い、って呼ぶときの仕草。

アンタ、本当に死ぬのか?

急にさっき聞いた半年、という話が現実味を帯びる。





確かにマツオカさんが言う通り、コイツが俺たちに看取らせるとは思えなかった。

惨めな姿を晒すようなヤツじゃない。

でも、俺達は、それを惨めだなんて思わないのに。

「なんでっ」

思わず口に出した言葉は、みっともない程に感情的だった。





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