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夜の影

第11章 The first man

【智side】

「なんでアンタはそうやって…
いつでも自分で好き勝手に決めてっ
周りの奴の気持ちなんて気にもしないんだよっ」

ようやく顔が俺の方を向いた。

ほんの少しだけ口角が上に上がって。
滅多に見せない、皮肉のない笑顔。

「智、動くのが億劫だ
早く来い」

「…っ」

くそっ、と思いながら。
仕方なく目を閉じ、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

受け入れるしかないのか。

結局最後まで、俺はコイツの特別にはなれない。





何度目かの深呼吸が溜息で終わって。
社長のところまで歩いて行った。

肘掛けに乗った手に触れると、ギュッと握られる。
この人の手は、いつも冷たい。

「智、これが終わればお前も自由だ
全て忘れろ
いいな?」

返事が出来なくて、その笑い顔をじっと見てるしかない。

「お前はまだ若い
絵を描くのが好きだっただろう
大学に入って学んだらいい
カズと一緒に光の中へ戻れ」





馬鹿じゃねぇの、と思う。

無理だよ、今更。
どんだけの男と寝てきたと思ってるんだ。

アンタが俺に教えたんだろ?

苦痛も、快楽も。

虚しさも、諦めも。

カズはともかく、俺はとっくに普通じゃなくなってる。

今更、健全な大学生なんて出来るわけねーだろ。

「ふっ、アヒルになってるぞ
泣くな」

言われたから、慌てて顔をそむけた。

唇が震えないように、しっかり噛みしめる。





「俺の為に泣くことはない
俺は自分が望んだ通りに進んでる
満足だ」

「…ぅ…っ」

「初めから俺が長くないことはわかってた筈だ
だからお前もカズも、俺に付き合ってくれたんだろう?」










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