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夜の影

第11章 The first man

【智side】

「お前はいつもカズに遠慮して…
もう自由になっていいぞ」

言って、社長は組んでいた脚を解いた。

俺の手を握ったままで両腕を広げて。
立っている俺を見上げる。

「ほら」

来いって言われても行けない。

そこはカズが甘える場所だから。

いいんだ。

俺は自分で納得して始めたんだから。





祖父母が亡くなって、後に母も病で亡くなり。

将来のことも何もぼんやりとしか想像できてなかった平和な高校生のガキだった俺には。

いきなり天涯孤独になった自分を受け入れようにも実感が伴わなかった。

取りあえず卒業だけはしようと、コンビニでバイトしていた時、ある日突然現れた腹違いの弟。

単に父親が居ない家庭というだけで母と祖父母に愛されて育ってきた俺には、カズの生い立ちを知るにつけ、償う義務があるような気がして。

半分だけ血のつながった弟に対して、負い目を感じた。





一人ぼっちのカズには「叔父さん」って人だけが味方で。
その「叔父さん」が困ってる、という話を聞かされた時。

自分には関係のない話、と断ってしまえば良かったのかもしれない。

でも、カズにとって、俺は自分の母親を苦しめた 愛 人 の子供で。

あの家からまんまと逃れ、しがらみなく暢気に育った半分だけの兄で。

助けてください、と頭を下げるカズに、断ったらどうなるの?って訊いたら。

自分がやる、って。





実際あの時、社長はかなり困った状態だったらしくて、10代の初物の玉がどうしても必要だったとマツオカさんから後に聞いた。

カズが自分がやる、と言うのを社長が断固として受け入れなくて。

どうしようもなくなってカズが俺を探した、って。





カズがどういうつもりで俺をあたったのか、それはわからない。

便利に使おうと思ったのか、それこそ復讐の一環だったのか。

どっちだっていい。
俺はもう考えるのをやめた。

寝込んだ俺の面倒をみてくれたカズの顔。
あれで充分だ。






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