テキストサイズ

夜の影

第14章 Akira

【智side】

汗で湿った髪から、かすかに染毛剤の匂いがしてる。

好みのウルサイ客だと聞いていたから、何か言われるかと思ったけど、取りあえずは大丈夫だったらしい。

仕事で男に 抱 か れ る のは久しぶりだった。

このところずっと、気が乗らなくて断ってたから。



ていうか、多分、もう限界で。

仕事が辛くなってたんだろう。



元々したくて始めたことでもないし、特にやりがいがある、ってわけでもない。

カズに頼まれた一件だけのつもりが、ズルズルと辞め時を失ってしまって、半分意地になって続けてきたけど。

考えてみれば、この仕事を始めてから、俺の時間はずっと止まったままだった。

何も生み出さず、形に残るものもない。

ペットの様に愛でられて、都合よく扱われて、晒 さ れ て。

それも、これで終わりだ。

この仕事が終われば、もう、男と 繋 が る 必要はなくなる。



社長は、自由になっていい、と俺に言ったけど。

自由、って、何なのかな…。

止まったままだったのは確かだけど、考えないでいられたのも、また確かで。

自由になるってことは、今度は自分の人生としっかり向き合って、進めていかなくちゃならないんだろうな。

抱 か れ ながら、そんなことを考えて、ショウのことを思い出したりした。



あの後、躰 は 大丈夫だったのか。

俺は夜が明ける前に部屋を出たから知らない。

マツオカさんに頼んであるから、誰かはショウの傍についててくれるだろう。



さて。
まだ俺には仕事としてやることが残ってる。

俺と客との 房 事 をドアを開けてずっと覗いていた男。

まぎれもない俺の従兄でもあるニノミヤ某氏。

この男を客の庇護から引っ張り出さなくてはならない。

裸 の上に部屋に備え付けのホテルの寝間着を着て、ベッドルームから出ていく。

頭からすっぽりと被るシャツタイプの上衣は、おあつらえ向きに、丁度 尻 が 隠れるぐらいの丈だった。

襟のところに緊急時用に持たされている小型の発信機をつけてから、一つ大きく深呼吸して、主寝室のドアを開けた。







ストーリーメニュー

TOPTOPへ