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OS短編集

第1章 ふりーず、からの

【智side】

玄関まで迎えに行くと、案の定、シューズボックスの上に置いた鍵置き場所のトレーを睨んで固まってた。

右手には、まだ家の鍵を持ったまま。

左手には、肩から降ろしたリュックを握ってる。

きっと、頭の中では鍵を戻して、もう部屋に入ってるんだろうけど…。

やってるつもりで動かなくなっちゃったんだな。




「おかえり」





なるべく脅かさないように、優しく声を掛けてみる。

鍵を受け取って、トレーの定位置に置いてやり、腕をそっと掴んで、体を正面に向けた。

俺を認めると、情けなく眉が下がって、眉間のシワがなくなった。





不安そうな顔しちゃって。

イッパイ・イッパイなんだろう。

可愛いな。






「……ぃま……」

「うん、おかえり
寒くなかった?」

「…………」

リュックを受け取って、とりあえず床に置いた。

肩から首に腕を回して、静かに頭を抱いてやる。

オイラの耳のあたりに触れた、翔君の鼻先が少し冷たい。

息を大きく吸い込む音がした。

ゆっくり吸い込んで。

溜息をつくみたいに、はぁ~と吐き出す。

腕がぎこちなく動いて、オイラの背中を包んだ。





「……さと…の匂い、する……」

「うん
風呂、はいれるから、行ってきな?
ほら、靴、脱いで」



オイラを抱きしめたまま、もぞもぞと足が動いた。

そのまま、二人くっついて浴室へ移動。

こうしてオイラは後ろ歩きが得意になる。





「……ぉきてた?……」

「うん、大丈夫だ
愛してるよ」


後ろ頭を撫でながら言うと、翔君が息だけで笑う気配がした。





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