たけるとみかる―双子みたいな幼なじみ―
第4章 佐倉武
「おいっ! おふくろっ!」
リビングに駆け込むと、台所に向かっていたおふくろは、お玉を持ったままビックリして俺に振り返った。
「っ! や……やだぁー武ぅー。急に入ってこないでよー。ビックリするじゃなーい」
「あのさっ、もしかして実果留って、来たりしてたのかっ!?」
おふくろのリアクションを無視して、一方的に訊いた。
ヘアゴムを握る手の力が、自然と強まる。
『来るわけないでしょう? 実果留ちゃん、デートなんだからぁー』とか言うのを、どこかで期待した。
ヘアゴムという決定的に近い証拠があるってのに、それでもどうか、俺の気のせいであってほしいって願った。
しかし――
「あら、よくわかったわねー。そうよ。実果留ちゃん、せっかく来てくれたのに、あんたってば少しも起きずにずーっと眠ってたらしいじゃない?」
更に決定的なことを言われた。
「っ! 何でだよっ!?」
信じたくなくて、たまらず怒鳴った。
「えっ……えぇ? 何でって、こっちが聞きたいわよ。『何で来ても気づかないのよ』って。武って、本当に鈍いわねー」
おふくろは呑気(のんき)にそう言うと、お玉でみそ汁を少しすくって、小さなお皿に垂らす。
「そうじゃなくてっ!
『何でデートのはずの実果留が俺のところに来たんだ!?』って話だよっ!」
「もーう、なーに怒ってんのよー。
実果留ちゃんはね、デート中止になったのよ。プラネタリウムが休館だったみたいで……うーん、グッド」
と、みそ汁の入った小皿に口をつけて、美味しそうに味見をするおふくろを、
俺は……ボー然として眺めていた。
そ……そんな……。マジで実果留が来ていたなんて……。何でだよ実果留っ……。俺、お前にあんなヒドいことを言ったのにっ……。
「それで、あんたのお見舞いに来てくれたのよ。
朝の仲直りも兼ねてね」
「えっ……仲直り?」
(もういいっ! 武のバカっ!)
実果留……。
「それなのに、あんたってコはー……」
「…………っ」
「あっ、ちょっとっ……武ぅーっ?」
俺はおふくろが呼び止めるのを無視し、リビングを飛び出して階段を駆け上がると、再び部屋に入り込んだ。