sweet poison【BL】
第4章 生き残った者の未来
その言葉に、陽一は弾かれたように顔を上げた。
そしてスケッチブックに言葉をつづった。
『仕事は?』
「もうすでに辞めてあるんだ。お前の看病もあったしな」
驚いて母に視線を向けると、何も言わず、何度も首を縦に振った。
「幸いにも退職金は思った以上に出たし、家も売れば引っ越し代金にはなるだろう。大学の方は…諦めてもらうしかないが…」
羽月と一緒に通うはずだった大学。
しかしすでに入学式は終わり、そして二人とも通っていなかった。
今更一人で通っても、意味はなかった。
羽月が一緒でなければ…行く意味すら無いのだから。
「父さんの昔の知り合いで、水野という男を覚えているか? 彼の故郷で今度事業を立ち上げる話が出ているんだ。それに参加しようと思っている」
水野、という名前には覚えがあった。
昔から何度か家に遊びに来て、陽一を可愛がってくれた父の同級生だった男性だ。
「水野が家族で引っ越してくるなら、家や仕事は準備してくれるという。お前も療養を兼ねて、向こうで暮らそう。田舎だが、果物や花がたくさんある良い所だそうだから」
―当時、水野が陽介に事業の話を持ちかけたのと、陽一と羽月が心中事件を起こしたのはほぼ同時期だったと言う。
陽一は黙って頷いた。
父は誘いのように言ってくれるが、本当は選択肢は他に無かったのだろう。
父の歳で再就職は難しいだろうし、陽一だってすぐに社会に出れるわけがなかった。
水野の誘いは、ありがたいもの。
受けないわけにはいかなかった。
それから一ヵ月後、リハビリは順調に進み、松葉杖をつきながら陽一は退院した。
何とか声も少しならば出るようになり、茜一家はあの土地へ引っ越したのだ。
そしてスケッチブックに言葉をつづった。
『仕事は?』
「もうすでに辞めてあるんだ。お前の看病もあったしな」
驚いて母に視線を向けると、何も言わず、何度も首を縦に振った。
「幸いにも退職金は思った以上に出たし、家も売れば引っ越し代金にはなるだろう。大学の方は…諦めてもらうしかないが…」
羽月と一緒に通うはずだった大学。
しかしすでに入学式は終わり、そして二人とも通っていなかった。
今更一人で通っても、意味はなかった。
羽月が一緒でなければ…行く意味すら無いのだから。
「父さんの昔の知り合いで、水野という男を覚えているか? 彼の故郷で今度事業を立ち上げる話が出ているんだ。それに参加しようと思っている」
水野、という名前には覚えがあった。
昔から何度か家に遊びに来て、陽一を可愛がってくれた父の同級生だった男性だ。
「水野が家族で引っ越してくるなら、家や仕事は準備してくれるという。お前も療養を兼ねて、向こうで暮らそう。田舎だが、果物や花がたくさんある良い所だそうだから」
―当時、水野が陽介に事業の話を持ちかけたのと、陽一と羽月が心中事件を起こしたのはほぼ同時期だったと言う。
陽一は黙って頷いた。
父は誘いのように言ってくれるが、本当は選択肢は他に無かったのだろう。
父の歳で再就職は難しいだろうし、陽一だってすぐに社会に出れるわけがなかった。
水野の誘いは、ありがたいもの。
受けないわけにはいかなかった。
それから一ヵ月後、リハビリは順調に進み、松葉杖をつきながら陽一は退院した。
何とか声も少しならば出るようになり、茜一家はあの土地へ引っ越したのだ。