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sweet poison【BL】

第5章 相対する二人の心

「…話は終わりだよな? 契約は悪いが断る。こっちのリスクも高過ぎるんでな」

陽一はそう言いながら立ち上がり、床に散らばった荷物を拾い上げた。

「それ、陽一一人の意見じゃないの? 他の人に相談してみた?」

「お前がさっき言っていた水野さんとも話し合ったさ。確かに一時は売り上げは良いだろうが、後が怖い」

「それはこっちでフォローするよ。ボクだってだてに経済学を学んできたわけじゃないんだ」

扉へ向かおうとする陽一の前に、羽月が立ちふさがる。

「羽月っ…!」

「…行かないで、陽一。もう心中なんてしようとも思わないから」

「信じられないな。大体五年前のことは心中なんて言えない。あれは一方的な殺人未遂だ」

羽月は死にたがっただろうが、陽一は生きたかったのだ。

そのすれ違ったヒビは大きい。

「本当にゴメン。謝るし、償いだっていくらだってするから…」

「だから何だ? 元鞘に戻ろうなんて言わないよな?」

「陽一…」

自分より頭一つ分高い羽月を、陽一は睨みつける。

愛し・愛されていた気持ちが強い分、裏切られたという反動が大きかった。

「陽一、お願いだからボクを許して。じゃないと…」

「オレは何があってもお前を許さない。…そもそもお前は五年前のあの時に、全てを終わらせようとしたんだろう? だったら今が無くともいいはずだ」

「それは…!」

「生き残ったら生き残ったらで、やり直そうって言うのか? それじゃああんまりに自分勝手過ぎる。オレの意思をお前は全然考えちゃいない」

自分を見つめる切なげな視線から逃れたくて、陽一は足を進めた。

「待って!」

しかしドアノブに触れる寸前で、後ろから抱き締められた。

「はっ…なせよ」

「ヤダ…イヤだ! 行かないで、陽一!」

力任せに抱き締められ、苦しいのに抵抗できない。

懐かしい彼の存在に、酷く心が揺れ動いてしまうのだ。

抵抗したいのにできないジレンマは、羽月への思いからだ。

「もしこのまま本当に陽一がボクを捨てるなら…」

羽月はゆっくりと顔を上げ、陽一の耳元で囁いた。

「陽一の全てを―壊す」

「なっ!」

驚いて羽月を見ると、怖いくらいに美しい笑みを浮かべていた。

「まずは会社だね。働いている場所を徹底的に潰すよ。社会的にも、間接的にもね。建物も潰す」

「羽月っ…!」

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