兄弟ですが、血の繋がりはありません!
第3章 次男のオモテは裏…らしい
智希side
どのくらい、だろう。
鶫から離れることが出来ずにいた。
鶫はあれから何も言わないし、振りほどこうともしない。
「つぐ」
「ん…?」
「離していいんだよ」
「なんで?」
「なんで、なんでって・・・」
"気持ち悪いでしょ?"
そう動きかけた口を止めたのは鶫の言葉。
「オレ、兄さんにこうされるの好きだよ。安心するし、昔を思い出すからさ」
くふふ、そんな優しい笑い声にどんな顔で笑っているのか見たくなってそっと腕を解いた。
「あれ、もういいの?」
「鶫の話してる顔、見たい」
「じゃあさ、」
***
『散歩しない?』
そんな誘いを受けて、ゆっくりゆっくり2人でまだ暗い道を歩く。こんな場所でも星が見えるんだって、忘れていた何かを思い出す。
「・・・さっきの続きね。オレが小さい頃はさ怖いものがいっぱいあって、何かあればすぐ兄さんに泣きついてたでしょ?だから懐かしかったよ、ああして抱きしめられるの」
そうだ。
幼い頃の鶫は怖がりで泣き虫だったんだ。
犬が怖い、雷が怖い、オバケが怖い、暗いところが怖い、隣のおばちゃんが怖い。事あるごとに俺に泣きついて来た。
それに、鶫は大人しかった。あまり喋らなくて、部屋の隅でふわふわ笑っていて、それで・・・。
「鶫は、いつから、鶫になったんだろう」
自分でも何を言ってるのか分からなかった。
だけど、知りたいと思った。
いつも笑顔で、おかしなことをしては弟にキレられてヘラヘラ笑って話の中心にいて、常に誰かに囲まれて。
「小4とか、かな。他人の家の事情を誰かがどこからか仕入れて来ては話すようになる頃」
「それで、誰かにうちの事酷く…」
鶫が慌てたように手を振り回す。
「違うよ、そんなこと一回もない!そうならないように、オレはクラスのリーダーになったんだから」
今度は悲しそうに笑った鶫に、背後の月が重なる。
「力を持った人間には余っ程のことがない限り誰も逆らわない。それを分かってて、自分が傷つきたくなくて、オレは『クラスの人気者、方来鶫くん』になったんだ」
「でも、それなら家では・・・」
「そう、だね。でも、オレ不器用だから上手く出来ないんだよ。上手に分けらんなくて、学校で素が出るのが怖くて…」
『これを方来鶫として生きてた』