兄弟ですが、血の繋がりはありません!
第13章 音がしたのは冬のはじまり
鶫side
いつもと同じように制服を着て家を出た。
毎朝声をかけてくれる公園の掃除をしてるおばちゃんに何も変わっていないかのように返事をした。
だけど今日は。
小さなビルの屋上にある錆びた小屋で制服を脱ぐ。
ここは小さい頃兄さんと一緒に見つけた秘密の場所で、嫌なことがあるとよくここに来て1人で泣いていた。
「何も、変わってないな…」
一つ、変わっていることがあるとするならば。
あの頃みたいにここで泣いていても兄さんが見つけに来てくれることがないってことくらいだ。
そう、もうそんな子供じゃないんだ、オレも。
だけどまぁこんな風に感情で家を飛び出してしまうところはまだ、成長しきれていない証なのかもしれない。
兄弟や親に心配をかけることも、同じか。
適当に持って来た服に着替えて小屋を出ると嫌な色の雲が遠くの空に広がっていて、折りたたみでも傘を持ってくるべきだったなと反省する。
・・・行先だけは決めていた。
母方の祖母の家だ。あそこなら、絶賛喧嘩中の母さんはもちろん兄さんや悠もなかなか突撃してくることはないだろう。
それに、あそこは北関東の山の中だから気持ちを落ち着けるのには持ってこいの場所だ。
さて、1週間。
けして長くはないけど短くもない。大切な時間を手に入れたからには、もしこれから5年・10年と月日が経ってからふと思い出すような1週間になればいいな。
それの最初は電車に数時間揺られるところから。