兄弟ですが、血の繋がりはありません!
第13章 音がしたのは冬のはじまり
「…オレ、今になって自分がやりたいこととかなりたいモノとかそういうのが分からなくなって。それで…全部置いて逃げ出してきた」
この人には嘘を言ったってすぐにバレてしまうと最初から分かっていたから。全部ありのままを話すことにした。
「それは本当に今、決めなきゃならないのかい」
「だってオレ今年受験で、みんな何かになりたくて大学決めてんだよ。それなのに、俺の手には何もなかったんだ」
18年何してたんだってそれくらいオレには何もなかった。空っぽのただの人間の形をした器。
「鶫はあの子と正反対だねぇ、高校出てすぐ何もやりたいことがないから東京行くって出てったあの子とは」
「母さんが…?」
「そうだよ。聞いたことなかったのかい。なんであの子が女優になったか、若くして鶫を産んだのか」
聞いたことなんてなかった。なんとなく聞いちゃいけないような気さえしていた。
「それじゃあ話すのはばぁちゃんの仕事かね。
…まぁその前に素直に話した子には夕ご飯だ。裏の畑から白菜とっておいで。鍋にしよう」
「・・・うん」
そうだ、まずは温かいご飯を食べて心を落ち着けよう。それに、こうやって母さんがいない時に話してくれるということはオレが思っているより簡単な話なのかもしれない。
***
「さ、熱いうちにおあがり」
「いただきます!!」
ばぁちゃんが作ってくれた鍋は食欲を唆る胡麻味噌スープで、白菜や鶏肉・味の染みたしらたきなど具が鍋の中で犇めき合っている。本当に美味しそう。
まずはぷりぷりのお肉としんなり白菜を口に入れた。
「は、ぅ…うんまぁあぁぁあ…」
お肉も美味しいけど何より白菜が蕩けるようで、口の中でスープと混ざって熱うまだ…。
「ばぁちゃん白菜が美味しすぎるよっ」
「そりゃそうだ、ばぁちゃんは冬はこの白菜売って生活してるんだから。自慢の白菜だよ」
「そういえばずっと気になってたんだけど、ばぁちゃんまだ60代だよね?なんでそんなおばあちゃんみたいな話し方すんの?」
「そりゃアンタ。私だって鶫が生まれてばぁちゃんになったんだから。少しはばぁちゃんらしくしないとね。それに…最初は抵抗あった"ばぁちゃん"って呼び方、今は気に入ってるんだよ。鶫と智希と悠ちゃんの特別だろう?」
ばぁちゃんの眩しさは涙がでそうだなぁ…。