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僕ら二人

第1章 プロローグ

グレーのズボンに白いボタンダウン。赤いネクタイ。

学生服姿の伊吹桂が入ってきた。

「ここじゃオールディーズ以外は聴いちゃダメなんだぜ?」

そんな軽口を叩きながら光彦の向かいに座った。

櫛を取り出しリーゼントにキメた髪を撫でつけた。

「ビートルズだってオールディーズだろ」

「それは違うな〜。何飲んでるの?」

「ミルクセーキ」

「渋いねえ」

桂はショートホープをテーブルの真ん中で2、3度トントンとやって火を点けた。

「あーうまい」

「いいのか。練習前にタバコなんて」

「ヘッチャラさ。ちょっと飲ませろ」

「おい!」

桂はグラスを引き寄せストローを咥えた。

「自分で頼めよ。まったく」

二口ほど飲んで「間接キスだな」と言って笑った。


桂は男前だ。

キリリとした目。鼻筋が通った顔。

おまけにスポーツ万能。

女にモテないわけがなかった。


「光彦んとこアジサイ祭り何やるんだよ?」

「さあ。どうせ綿菓子とか焼きそばとかそんなんだろう」

「オーソドックスだな。もっとこう面白い事を思いつかないのかね」

「いいよ。面倒くさい」

「たしかに。あ、見ろよ。ホタルだ!」


窓の外を同級生の岬ホタルが通り過ぎた。


物静かで小さくて女みたいな奴だ。

性格がではなく、見た目という意味だ。

物好きな男子の中には女よりよっぽど良いと言う奴もいた。

桂もその一人だった。

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