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無表情の宇野くんA

第52章 プールとホテル②。

枕たたきとかしていた夜。


宇野くんがトイレに行きました。


このホテルにはトイレが部屋についていない。ホテルの入り口、受付の横のユニットバスと、客室がある二階の廊下の奥にある汚い和式便所だけである。


宇野くんがトイレに立ったそのタイミングで、私は五味さんに確認しておきたいことがあった。大毛さんもいるので女子二人きりということはないが、大毛さんは乙女みたいなものなのでいいだろう。


「五味さんは宇野くんのどこが好きなの?」


これは物凄く失礼な質問だろう。友達としての縁を切られる可能性もある。幼稚園でも作られる質問だ。


でも、私は突然疑問に思った。突然というか前から密かに気になっていたことだし、疑問というか単純なる興味なのだろう。


宇野くんは前々から五味さんが好きだった。過去の失恋経験があったから、自分に優しくしてくれる五味さんに好意を抱いたのか、ずっと五味さんが好きだった。だから告白した。


でも、五味さんは果たして本当に宇野くんのことが好きなのだろうか?という疑問。


こんなこと言っちゃ批判を食らうのだろうけど、「告白されたから付き合った」という人間がこの世にいることも否定できない。


五味さんはとてもいい子だし、告白された時は本当に好意を持っていたのかもしれないが、しかし二年経った今では、もうその気持ちが冷めているのではないか?


男に良くしてもらって、愛していることを見せられ続けて、彼女は男に飽きてしまったのではないか?


だから自分たちのデートに、無関係といったら他人行儀だが、無関係な私たちを連れて来たのではないかと。


私はなんとなく、そんな風に思っていた。


だからこれは物凄く失礼な質問なのだけれど、私が五味さんに確認しておかなくてはならない質問なのだ。


遊園地でなんの遊具に乗ろうとか、ウォータースライダーだって、五味さんとしたいと言い出したのは全て宇野くんだった。


どちらが可哀想とかそんな話で、私はやっぱり、宇野くんが可哀想に思えて来てしまったのだ。


しかし、五味さんはいつもの笑顔で、屈託のない子供のようなその笑顔で私の質問に答えた。


「私のことが好きなところが好き」


それは、五味さんらしい嘘偽りのない答えだと、私は思った。

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