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無表情の宇野くんA

第53章 プールとホテル③。

「私ね、昔はとっても臆病だったの」


五味さんは、天井の切れかけの豆電球を眺めながら言いました。


それは私も知っている。小学校の頃から、彼女のことを認知はしていた。


彼女は自分の容姿や特技をからかう、その歳特有の男子のデリカシーのない行動のせいで、自分には魅力がないのだと塞ぎ込んでいた。


「もちろん、宇野くんに告白されて、私に魅力があることに気づかさせてくれたから宇野くんのことが好きになったなんて自意識過剰な理由じゃないよ。それは違う。宇野くんのことを好きになったのはもっと前から。中学三年の、それもまた今日みたいに私のわがままで、みんなで遊園地に行った時」


五味さんはそっと思い出を振り返るように語り始めた。


それは中三の頃、五味さんの企画立案で、親睦を深めるという目的の元、学校側の配慮もあってクラスの班で遊園地に行った時のこと。


宇野くんと私がコーヒーカップに乗った後、宇野くんが気分を悪くしていたので、私が遊園地を回っている間、五味さんが宇野くんとベンチで待っている間のことだったらしい。


「宇野くん、ここに来るバスの中でも酔ってたもんね。気分大丈夫?」

「.........」

「私、なにか飲み物買って来るけど、なにか飲みたいものある?」

『カルピス』


そこだけ反応の早いがめつい宇野くん。一瞬で、当時持ち歩いていたスケッチブックにカルピスの文字を書き込む。


私ならば言っておいて自分で買いに行けと小銭を投げつけるところなのだが、そこは五味さん、宇野くんからお金を巻き上げることもなく、笑顔で自動販売機に飲み物を買いに行った。


その頃私は、トンネルをくぐってはまたくぐる、趣旨のよくわからないジェットコースターに乗っていたらしい。


そんな記憶全然ないけど、五味さんよく覚えてるな。


さておき。


五味さんが宇野くんのカルピスと、自分の分の午後の紅茶を買って宇野くんのところへ戻ろうとした時、五味さんに声をかける二人の男が。


「お嬢さん、一人?」

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