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ホントノ私ハ、此処ニイル

第3章 第3話


 リビングの照明を間接の常夜灯のみに切り替えて、僕は風呂場へ向かった。

 そして、脱衣所でワイシャツを脱ぎ、すぐに洗濯機にほうり込むのだ。


 こんな甘ったるいにおいはさっさと消したい。

 使うのは、あの背広のにおいだけで十分だから。


 夜中なのにわざと音を立てるようにして風呂場の扉を閉め、そしてシャワーを浴びながら考える。

 今日、これからのことを。

 昨日までの僕なら、このあと少し酒を飲んで本を読みながら横になるのだろうが、今日は違う。


 僕にはわかってるんだ。

 仕事が一段階した妻が、
 疲れていることも、
 ホッとしていることも、
 自分を持て余していることも……


 だから、あんなにおいのついた背広を、妻の鼻につく場所に置いたんだ。

 妻がちゃんとヤキモチをやけるように。

 妻が、本当の自分を解放してあげられるように。


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