ホントノ私ハ、此処ニイル
第3章 第3話
体についた水滴を拭き取った、大きなバスタオルをそのまま腰に巻いて、僕はリビングに向かった。
手には、紅紫色のロープを握りしめて。
僕の予想通り、いや、計画通りに妻は目を覚ましていて、その腕には、あのにおいのついた背広が抱えられていた。
リビングの扉を開けた音に反応し、妻は僕をみているようだが、敢えて気付かぬふりをしてキッチンの冷蔵庫へ。
冷蔵庫に入っているミネラルウォーターの500mlペットボトルを手にしたところで、背中側から声がした。
「おかえり」
さっきまで寝ていたのがわかるような鼻にかかった妻の声。
僕はロープとペットボトルをぎゅっと掴み、なんとかいつもと変わらないように「ただいま」と背中で返す。
駄目だ、そろそろ……水を飲む余裕すら、なくなってしまうよ。