ホントノ私ハ、此処ニイル
第1章 第1話
「あ、ごめん、ちょっと電話ね」
そう言い残し私は金庫室を出て、携帯を開きながら自分のデスクあたりまで歩を進めた。
そして、通話ボタンではなく、通話“停止”ボタンを押した。
そう、この着信は、私が設定した擬似着信なのだ。
携帯を胸ポケットに再び納めながら金庫室前へと戻り、その内扉を閉め、さらに中から空けられないようにわずかな細工をした。
中に加賀見くんがいることは百も承知で。
実のところ、さっきから加賀見くんが一生懸命探している証書の紛失も私の意図したもので、彼女を金庫室に誘い出す為の口実なのである。