
ホントノ私ハ、此処ニイル
第3章 第3話
「おかえり」
妻の声は、寝起きとわかる鼻声で、
「遅かったね」
そう言って立ち上がった妻の洗い髪は、いい香りがしていた。
「どうかした?」
僕に背広を脱ぐのを促すような仕草は、普段あまりお目にかかることがないにも関わらず、ごく、ごく自然で、
「……ねぇ?」
僕の背広をその小さな腕に抱えた妻の、どこかしらを探るような視線は、はかなげだった。
「このにおい……」
急激に潤み始めた妻の瞳は、いつになく色っぽく、
「浮気……した?」
その瞳で僕を見つめる妻は、いつもの冷静さを失っていた。
初めてみる妻の嫉妬に、
あの時の僕は、
快感を覚えていた――
