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ホントノ私ハ、此処ニイル

第3章 第3話


 自分の唇を重ねようと近づいた僕に気づき、妻はこう言う。

「浮気なんて、いや……」

 目隠しされたままにつぶやかれた、泣き声にも似た愛しい声。


 ありがとう。

 僕を恋しく思ってくれて。


 こんな状況になってようやく、妻は自分の中の嫉妬深さをのぞかせる……いつもは、冷静で落ち着き払う姿しか見せてはくれないのにね。

 僕は、妻のこの一面を解放してあげる為に、例の背広の準備をする。

 見ず知らずの女に香水をなすりつけてもらって、妻の嫉妬心を呼び覚ますんだ。

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