始まりは冬の夜から
第1章 Act.1
私は思わず顔を上げた。
「全く……。だから俺は、藤森を苛めてやりたくなる」
そう言うと、椎名課長は口元に笑みを湛えた。
私は目を瞠った。
椎名課長の笑った顔を見たことがないわけじゃない。
けれども、私に向けて笑うなんてことは今まで一度もなかった。
「どうした?」
呆然としている私の前に、椎名課長が顔を近付けてくる。
私は仰天して、椅子に座ったまま後ずさりしてしまった。
キャスターが付いているから、結構よく転がる。
椎名課長もまた、椅子ごと私に近付いてくる。
そして、同時に逃げようとする私の左腕を掴み、先ほどとは打って変わり、ニヤリと不敵に笑った。
「逃げようったってそうはいかないぞ?」
「べ、別に逃げるつもりは……」
「ない、と言いきれるか?」
「それは……」
私は返答に詰まった。
逃げる、というより、何となく警戒心を抱いたのは確かだ。
ただ、仕事には人一倍厳しい椎名課長だ。
そんな人が、オフィスという聖地でいかがわしいことをしようなんて考えには至らないと思う。
「全く……。だから俺は、藤森を苛めてやりたくなる」
そう言うと、椎名課長は口元に笑みを湛えた。
私は目を瞠った。
椎名課長の笑った顔を見たことがないわけじゃない。
けれども、私に向けて笑うなんてことは今まで一度もなかった。
「どうした?」
呆然としている私の前に、椎名課長が顔を近付けてくる。
私は仰天して、椅子に座ったまま後ずさりしてしまった。
キャスターが付いているから、結構よく転がる。
椎名課長もまた、椅子ごと私に近付いてくる。
そして、同時に逃げようとする私の左腕を掴み、先ほどとは打って変わり、ニヤリと不敵に笑った。
「逃げようったってそうはいかないぞ?」
「べ、別に逃げるつもりは……」
「ない、と言いきれるか?」
「それは……」
私は返答に詰まった。
逃げる、というより、何となく警戒心を抱いたのは確かだ。
ただ、仕事には人一倍厳しい椎名課長だ。
そんな人が、オフィスという聖地でいかがわしいことをしようなんて考えには至らないと思う。