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ビタースイートに隠し味

第3章 Act.3

「藤森と、ずっと一緒にいたい」

 決定打とも言える台詞だった。

 私も異性と交際した経験はあるから、椎名課長の言葉の意図はすぐに察した。

 私は右手に握ったままだったスプーンをお皿に置き、椎名課長からアフォガードに視線を落とす。
 まだ、三分の一ほど残っていたけれど、それもほぼ溶けてしまい、ミルクがたっぷり入ったカフェオレの色に変化していた。

 椎名課長の前のアフォガードも同様だった。
 さっきまではあれほど嬉しそうに噛み締めながら食べていたのに、今はその存在すら忘れているのでは、と思えた。

「どうする?」

 無言を貫いたままの私に、椎名課長はやんわりと、けれども少し焦った様子で催促してくる。

「迷惑なら迷惑だとはっきり言ってくれないか? 今までだって、藤森は無理に俺に付き合ってくれた。俺はこれ以上、藤森に迷惑はかけたくない。――俺は、藤森が幸せになれることを最優先したい……」

 再び、私は顔を上げた。
 口元は笑みを浮かべているけれど、今にも泣き出しそうな表情だった。
 仕事の時は自信に満ち溢れていて誰からも頼られる存在なのに、こんな哀しい顔もするんだ、と胸の奥が酷く痛み出す。

 私は躊躇いながら、私に重ねられた椎名課長の手の上からさらに私のそれを載せた。

 椎名課長は瞠目したまま、重なり合った手を凝視している。

「藤森……、あまり俺を期待させるような真似は……」

「期待させているんです」

 あからさまに動揺している椎名課長を前に、私は自分でも驚くほど堂々と振る舞っていた。

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