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Melting Sweet

第5章 Act.5

「――私と杉本君じゃ、全く釣り合わないじゃない……」

 杉本君の真剣な眼差しに耐えられなくなった私は、俯いて視線を逸らした。
 胸の鼓動も速度を増し、身体も小刻みに震えている。本当にらしくない。

 ふと、畳の擦れる音が聴こえてきた。
 私は正座した膝の上に両拳を置いたまま硬直する。

 そっと私に近付いてきた杉本君の手が、私のそれに躊躇いがちに触れてくる。

「――年下の部下は恋愛対象外、ってことですか?」

 私は弾かれたように顔を上げる。
 私と目が合った杉本君は、哀しげに笑みを浮かべていた。

 胸の奥が酷く疼く。
 そんなつもりで言ったわけじゃなかったのに。

「――違う……」

 私は訥々と言葉を紡いだ。

「杉本君は人気あるんだから、もっと若くて可愛い子と素敵な恋愛が出来るじゃない。でも、私は若さもなければ可愛げも全然ない。さっきも言ったでしょ? 私は杉本君ぐらいの頃は温もりが欲しかった、って。でも、私は杉本君とは違って、相手は結局誰でも良かった。男に言い寄られてすぐ抱かれて、偽りでも愛の言葉を囁かれてさえいれば満足。ほんとはそんな軽い女なのよ、私は……」

 言い終える間もなく、私の視界がぼんやりと霞んできた。
 瞼の奥は熱くなり、透明な雫が幾筋も頬を伝ってゆく。

 頭の中はぐちゃぐちゃだった。
 友人達に、これまで付き合ってきた男達の愚痴は零したことはある。
 けれども、ちょっと吐き出す程度で、ここまで取り乱すことはなかった。

 それなのに、今日は本当にどうしてしまったのだろう。
 お酒に酔ったフリをして、杉本君の同情を買いたかったのか。
 でも、冷静になって考えてみれば、私の恋愛遍歴は、同情どころか引いてしまう。

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