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Melting Sweet

第5章 Act.5

「――今も……」

 私は杉本君に真っ直ぐな視線を注いだまま、ゆったりと続けた。

「杉本君は誰とでも寝られる? ――例えば、私なんかとでも……」

 言い終える間もなく、杉本君は私の唇に彼の人差し指をくっ付け、首をゆっくりと横に振る。
 これ以上は言うな、という合図のつもりだろう。

「俺がこれから言うこと、聴いてくれますか?」

 私は少しばかり固まったまま、瞬きを数回繰り返す。
 でも、すぐに我に返り、静かに首を縦に動かした。

「さっきも言いましたけど、ちょっと前の俺だったら、女ならば誰でもいいって思ってました。でも、今は違います。あなたと出逢って、あなたに恋をしてから、あなただけをずっと見つめてきました。だからと言って、あなたを今すぐに抱きたいというわけではない。――あなたが大切だから、傷付けたくないから、あなたが望まないならば、俺は黙って身を引くつもりです……」

 何を言ってるの? と私は思った。
 私に、付き合って、と言ってここまで連れて来たのは他でもない杉本君なのに。

「――狡い……」

 私は杉本君から視線を外し、そのまま額を杉本君の胸元へと押し付けた。

「杉本君は私に逃げ道を与えようとしてくれてるのかもしれない。けど、それってかえって傷を深くするだけだってどうして気付かないの……?」

 口にしながら、私は自分の言動に驚いていた。
 けれど、歯止めが利かず、思うがままに吐き出した。

「私は逃げない。杉本君が私を抱きたいと思ってくれてるんなら抱けばいい。――私は、利用されることに慣れてるから……」

 ここまで言うと、私はゆっくりと頭をもたげた。

 杉本君は何も言わない。
 ただ、私を神妙な面持ちで見つめている。

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