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Melting Sweet

第6章 Act.6☆

「開けられます?」

 ペットボトルを持ったままでぼんやりしていたから、非力だと誤解されてしまったらしい。

「大丈夫よ。これぐらい自分で開けられる」

 私は口角を歪めながら、右手に力を入れて蓋を開ける。
 パリン、と乾いた音が響く。

 杉本君を見ると、彼は半分ほどスポーツドリンクを一気に呷る。
 そして、口を離すと、フウと息を吐き、キャップを閉めた。

「どうしましょうかねえ……」

 杉本君は手持ち無沙汰に、中身がまだ残っているペットボトルを両手で揺らしながら、潰したり戻したりを繰り返す。

「居酒屋では大見得切っちゃいましたけど、いざとなると緊張するというか……。やっぱ、ほんとに好きな人が相手だとよけいに意識しちゃうのかな……。唐沢さんのことは、仕事上でも尊敬してますし……」

 そう言うと、杉本君は先ほど以上に大きく息を吐き出す。
 女としては、男子にしっかりリードしてもらいたいのに、今の杉本君を見る限り、とても期待出来そうにない。

 ――ここに来て、いきなりヘタレになってしまうなんて……

 杉本君とは対照的に、ラブホに入るまでの緊張感は私の中から完全に掻き消えてしまった。
 改めて、相手は十歳も離れた年下だと思い直すと、年上女に萎縮してしまう姿が可愛くて、幻滅するよりも微笑ましい気持ちになるから不思議だ。

 私はミネラルウォーターで口を湿らせてから、キャップを閉め、杉本君に真っ直ぐな視線を注いだ。

 杉本君も私を見つめ返す。
 相変わらずの緊張した面持ちで、けれど、右腕で私の身体を抱き寄せる。
 そして、ゆっくりと私に顔を近付けてくる。

 私は瞼を閉じた。
 〈その時〉を待つと、私の唇にほんのりと温かくて柔らかなものが触れた。

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