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お稲荷こんこん

第2章 ばあちゃんのこと

朝ご飯の後、ばあちゃんにはお昼寝タイムがあるらしい。
少しの間だけど、目覚めた後はスッキリして調子が良いとのこと。
いつもくるくると動いてるようなばあちゃんだけど、やはりそれなりの衰えはやって来てるのだ…。

ばあちゃんのお昼寝中、私は隣の休憩小屋にいた。
いつものばあちゃんのように、ちょこんと座って。

そういえば、ここに来てから一度もスマホに触っていなかったなあ…。
メールをチェックしたら、諭吉からのどーでもいい呟きメールだけだった。

いいなあ、先輩。ホリデーをエンジョイして…

何だそりゃ。

私が帰って来てるのを知って、村の人々がお参りがてら顔を見せてくれた。
他愛ない話で盛り上がりつつ、お茶とお稲荷を出した。
楽しい時間の後の、一瞬の空白は何なんだろう…。
私の夏休みは、明日で終わるからなのか…。

視線がお堂に向くと。
そうだ…。今夜はあの奥の間に行ってみようか。
もう私は大人だから、こそこそしなくてもいいよね。
堂々と…お狐様に会いに行きます、と宣言してみようか。
ちょっと、ワクワクしてきた。

家に戻ると起きたばあちゃんは台所に居た。
私を見ると手招きして。
「りん、お前…やってみるか?」
一瞬、意味が解らずにポカンとして。

「えっ? 私が…?」
ばあちゃんが大釜を指差して笑ってる。
意味を理解すると、少しだけ複雑な気分に。

ばあちゃんの経験が、少しずつ私に移行されようとしている…。
それが意味するものは…。

「わかった…やってみる。」
少し強く頷いて笑ってみせた。

子供の頃から、ばあちゃんの作業は見ていたから。
使う調味料も順番も、ちゃんと解ってる。
目分量でやる手元の感覚だって、きっと思い出せる…。
私は自分に言い聞かせながら、試験を受けてるような緊張を感じていた。
炊き上がるタイミングは、時間じゃなくて…仕上がりの色で決める。

合否の結果は、すぐには解らない。
何故なら、炊いたお揚げは一晩置いてから使うから。

「後は明日のお楽しみ。手順は合うてるよ。よう見てたねえ…。」
ばあちゃんは嬉しそうにホッとしたような、そんな顔をした。
その顔を見て、私も緊張が解ける…と思ったら…。

「じゃあ、次は合わせ酢を…」
ああ…そっちもあったかあ…。
また一気に緊張が戻ってきた…。

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