お稲荷こんこん
第2章 ばあちゃんのこと
結局、私の夏休みの最後の晩は…ソワソワと落ち着かないまま終わった。
奥の間に行こうとワクワクした気持ちは、緊張に打ち消されてしまった。
その夜…
私は夢の中で、お狐様に会った。
子供の頃と違ったのは、私は今の大人の姿。
キラキラと輝く銀狐は、流れるような動きで傍に。
私はその身体を撫でるようにそっと手を伸ばして…話し掛ける。
お狐様…私の名前、呼んでくれた…?
ゆっくりとしっかりと
私の頭の中に響くようにそれは聞こえた…
ああ…。ちゃんと呼んだ。我が名付けた名前を。
そう…なの?
ちょっと驚いて声が少し大きめになった途端に、ハッと目覚めた。
まだ夜明け前の暗い部屋。
真っ暗な天井をぼんやりと見つめて。
お狐様の声、やっと聞こえた…。
嬉しい筈なのに、気持ちが騒つく。
これも、ばあちゃんから移行したもののひとつならば…
それは、どんな意味がある…?
単純に、母親が受ける筈だったものを私が受けているだけなのか…。
そんな事を思いながら、また少し眠ったようで。
朝の光にもう一度目覚めた。
着替えて布団を畳むと、ひとつ背伸びをして部屋を出た。
私の顔を見ると、おはようと言いながらばあちゃんは土間に降りて。
「さあ、行くよ…」
私の夏休みの、最後の朝のお務めに向かう。
朝ご飯を食べながら、思い切ってばあちゃんに切り出した。
「あのね、私昨夜夢の中で…お狐様の声を聞いたよ。」
ばあちゃんは箸を止めて私の顔を見て。
「ほお…そうかい。りんにも聞こえたかい。お狐様は何て言うてた?」
「私の名前をつけたのは自分だって…。それどういう意味…?」
一瞬、驚いたように。でも、すぐに納得したようにうんうんと頷いて。
「そうかいそうかい…。そりゃあ、お狐様に間違いないわな。狗鈴という字は、お狐様から頂いたもんだからの。」
村の診療所に産科は無いので、ここでは産婆さんを呼んで自宅で出産する事が多い。
私の場合も、この家で産まれた。
産まれた翌日に、ばあちゃんと私を抱いた母親はあの奥の間に入って。
お狐様に無事な出産のお礼を言う為に。
手を合わせて祈るばあちゃんの頭の中に、お狐様は現れて言葉を授けた。
「狗鈴」の字と共に。
奥の間に行こうとワクワクした気持ちは、緊張に打ち消されてしまった。
その夜…
私は夢の中で、お狐様に会った。
子供の頃と違ったのは、私は今の大人の姿。
キラキラと輝く銀狐は、流れるような動きで傍に。
私はその身体を撫でるようにそっと手を伸ばして…話し掛ける。
お狐様…私の名前、呼んでくれた…?
ゆっくりとしっかりと
私の頭の中に響くようにそれは聞こえた…
ああ…。ちゃんと呼んだ。我が名付けた名前を。
そう…なの?
ちょっと驚いて声が少し大きめになった途端に、ハッと目覚めた。
まだ夜明け前の暗い部屋。
真っ暗な天井をぼんやりと見つめて。
お狐様の声、やっと聞こえた…。
嬉しい筈なのに、気持ちが騒つく。
これも、ばあちゃんから移行したもののひとつならば…
それは、どんな意味がある…?
単純に、母親が受ける筈だったものを私が受けているだけなのか…。
そんな事を思いながら、また少し眠ったようで。
朝の光にもう一度目覚めた。
着替えて布団を畳むと、ひとつ背伸びをして部屋を出た。
私の顔を見ると、おはようと言いながらばあちゃんは土間に降りて。
「さあ、行くよ…」
私の夏休みの、最後の朝のお務めに向かう。
朝ご飯を食べながら、思い切ってばあちゃんに切り出した。
「あのね、私昨夜夢の中で…お狐様の声を聞いたよ。」
ばあちゃんは箸を止めて私の顔を見て。
「ほお…そうかい。りんにも聞こえたかい。お狐様は何て言うてた?」
「私の名前をつけたのは自分だって…。それどういう意味…?」
一瞬、驚いたように。でも、すぐに納得したようにうんうんと頷いて。
「そうかいそうかい…。そりゃあ、お狐様に間違いないわな。狗鈴という字は、お狐様から頂いたもんだからの。」
村の診療所に産科は無いので、ここでは産婆さんを呼んで自宅で出産する事が多い。
私の場合も、この家で産まれた。
産まれた翌日に、ばあちゃんと私を抱いた母親はあの奥の間に入って。
お狐様に無事な出産のお礼を言う為に。
手を合わせて祈るばあちゃんの頭の中に、お狐様は現れて言葉を授けた。
「狗鈴」の字と共に。